君影草~夜香花閑話~
 真砂はしばらく何か考えていたが、不意に捨吉に目を向けた。

「お前だったらどうだ?」

「ええ?」

 いきなりな問いに、捨吉が怪訝な表情になる。
 が、もしかして自分にこの任務を任せるということなのだろうか、と、目を輝かせた。

「難しいかもしれませんけど、頭領のご命令とあらば、やってみます!」

 びしっと姿勢を正して言うが、今度は真砂が怪訝な表情になった。

「俺の命ってどういうことだ」

「女技を使わず、密書を探り出すのでしょう? そうですよね、頭領はまだ、腕の傷が治ってないですし、ここは俺が一命を賭してもやってみます! 頭領直々の期待を裏切ることにならぬよう、精一杯頑張ります!」

 ぐ、と拳を握って力説し、最後にがばっと頭を下げる。
 ぽかんとその捨吉を見ていた真砂が、しばらくしてから動く気配があった。

 そろ、と顔を上げた捨吉の目が見開かれる。
 顔を背けた真砂の口角が上がっている。
 笑いを堪えているのだ。

「と、頭領?」

 真砂が笑ったのも驚きだが、笑うようなことを言ったつもりはないのに笑われたのも驚きだ。
 自信なさげに言うと、真砂は誤魔化すように、ごほんと咳払いをした。
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