君影草~夜香花閑話~
「いや、うん、そうだな。それだけの気概があるなら、お前に頼むのもやぶさかではないが」

 各々が勝手に指令に向かっても別に構わない真砂だが、里の者は、やはり真砂の下知に従う。
 それはもう、嫌というほど経験済みだ。
 今まで下知という下知を与えたわけではないので、皆もはっきり言われなくても真砂の考えを汲み取って行動出来る。

 だがそれは、それ相応の経験者だ。
 そしてそれなりの経験を積んだ者は、少なからずこの前の戦で犠牲になった。
 残った者たちを育てていかないと、この先やっていけないのは、真砂もわかっているのだ。

 そして、自分の状況も。
 片腕では、今までのような働きは出来ない。

 それでも皆が真砂を頭領と立てるのであれば、そして、事実片腕でもしっかりと皆を統率出来るのであれば、今度こそ己は頭領として皆を導こう、と決めたのだ。
 この里に来てからは、指令があれば真砂が指揮している。

「だがやはり、内部に入り込んだほうがやりやすい。最終的に手を下す段で、男手は必要になるかもしれんが。いらぬ危険は冒さんに限るだろ」

「それは……そうですが」

「さっき俺がお前に聞いたのは、お前だったらこいつのような娘をどう思う、ということだ」

 ちょい、とあきを指す真砂に、捨吉は、一瞬きょとんとした後、ぱっと赤くなった。
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