君影草~夜香花閑話~
 夜がとっぷりと更けた頃、褥の中で、あきは天井を睨んでいた。
 うっかりすると寝てしまうかと思っていたが、真砂から与えられた指令のことを考えていると、眠るどころではない。

 ぐるぐると考えを巡らせていたあきは、は、と起き上がった。
 そろそろ子の刻である。

 そこかしこに転がる仲間を起こさないよう、そろりと起き上がると、あきは細心の注意を払って戸口に向かった。
 部屋の中の者らを注意しつつ、引き戸を開ける。

 その途端。

「何をしている」

 いきなり開けた戸の向こうから、低い声がした。
 中のほうにしか神経を集中していなかったので、あきは心の臓が止まるかと思うほど驚いた。

 あまりの驚きに、身体が浮く。
 引き戸が音を立てそうになったが、戸の向こう側の厨にいた人物が、素早く手を伸ばして戸を押さえた。

「と、頭領……」

 壁にしがみついた状態で、がくがくと震えるあきは、ようやく声をかけたのが真砂だと気付いた。
 真砂は口の前で指を立てると、今にもへたり込みそうなあきを、ひょいと抱え上げた。
 そしてそのまま、外に出る。

 静かにしろ、と仕草で言われたので、抱え上げられたのも驚いたが、何とかかろうじて声は抑え、外に出て真砂が降ろしてくれるまで、あきは大人しくしていた。
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