君影草~夜香花閑話~
「そんなに注意して出て行こうとしてたんだったら、厠ではないだろ。こんな夜に、どこに行くつもりだ?」

 外であきを降ろしてから、真砂が言う。

 迂闊だった。
 いつも夕餉のときから寝入ってしまうまで、真砂の姿はない。
 だからといって、朝まで母屋に帰ってきていないわけはないのだ。

 皆と母屋で暮らすことを了承した以上、野宿するなんてことはしないだろうし、何より今は冬なのだから、野宿など自殺行為だ。
 真砂は馬鹿ではない。

 誰も知らなくても、母屋で寝ているに決まっている。
 そしてこの真砂が、あきが動いたことに気付かないわけないではないか。

「あの……。すみません」

 しょぼん、と項垂れるあきに、真砂は少し眉を寄せた。

「別に怒っているわけではないんだがな」

 己が恐れられているのはわかっている。
 面白くもなさそうに、ぽつりと言った後、真砂は気付いたように、ああ、と呟いた。
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