君影草~夜香花閑話~
「逢引か」

「ええっ! あ、あの……」

 ずばりと言い当てられ、あきは傍目にも明らかなほど狼狽えた。

「それは悪かったな。そうだな、確かに母屋では、男も忍んでくることは難しいだろうし」

 別に夜這いは珍しいことではない。
 何てことのないように言う真砂だったが、あきは相変わらずおろおろと、赤い顔で狼狽えている。

 その様子を眺め、真砂はちょっと渋い顔をした。

「お前な……。もうちょっと心の乱れを外に出さないように注意しろ。そんなことでは、考えていることが丸わかりだぞ」

「あ、は、はい……」

「そんじゃぁな。あんまり外で長居するなよ」

「はい。頭領も、お身体冷やしませんように。血がまだ足りませぬ故」

 以前の真砂よりは、やはり少しだけだが話しやすい。
 あきはそう言って、ぺこりと頭を下げた。

 真砂は自分の左腕に視線を落とし、ああ、と呟いて背を向けた。
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