君影草~夜香花閑話~
 真砂を見送った後、あきは急いで納屋に向かった。
 ここには薪や農具、木材などが収められている。
 捨吉は、小屋の前で待っていた。

「ごめんなさい。出がけに頭領に見つかっちゃって」

 あきが言いながら駆け寄ると、捨吉は納屋の戸を開けて中に促した。
 そして中に入ってから、持ってきた小さな蝋燭に火をつける。

「そっか。母屋だもんな。頭領、何か言ってた?」

「ううん。あたしが何も言わないうちに、納得したみたいで特に何も」

 今の里の状態では、夜這いもままならないため、夜の逢引が多くなっているのは皆知っている。
 捨吉も、そう、と言っただけで、そのことにはそれ以上触れなかった。

「頭領、随分話しやすくなったよね。向かい合ったらやっぱり怖いけど、でも前より、皆のこと考えてくださってる。でも何で、ご自分の世話は誰にもさせないんだろう」

 あきが不思議そうに言う。
 自分が真砂に慣れただけなのだろうか?

「前より話してくれるようになったとはいえ、人との距離は、前より取るような気がするし。一人でいる時間は、むしろ以前よりも増えてるよね」

 人数の多い母屋にいるから、余計に真砂が他人を避けているのが目に付くのだろうか。
 そもそも昔から、真砂は一人で暮らしていたし、と考え、しかしあきは、その考えを否定する。
 きっと違う。
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