君影草~夜香花閑話~
「ふーん。だがこいつに、閨と探索の両方が務まるかな?」

「そうですねぇ……。閨はともかく、毎度気を失うようでは困りますわね」

 考える二人に、あきは赤くなって身体を縮こませた。

「乱破の男に慣れておけば、その辺の男などでは感じないものですが」

 なるほど、だから里の女子は、里の男に身を任せるのかと、あきは密かに納得した。
 里の男に抱かれるだけでも、女技の訓練になるというわけだ。

「でもそれは、実際にやってみないとわからんということだな。あきはまだ、里の男以外に抱かれたことはないだろう」

「ええ……」

「ならやはり、千代は必要だな。ま、的(まと)が千代のほうがいいと言えば、それでもいい。それでも多分、あきに手出ししないということはないだろう。とりあえずはお前も、普通の男を知っておけ」

 真砂に言われ、あきは頷いた。

「ところで真砂様」

 不意に千代が、つ、と真砂に近寄った。
 身体を寄せ、そろ、と手を真砂の左腕に当てる。
 途端に真砂は、身体を捻って千代の手を避けた。

「何だ、触れるな」

 普通なら、触れたら痛いからだと思うかもしれないが、真砂のそれは、きっと違う。
 大事なものに触れられたくない、という感じなのだ。

 片手では治療も思うように出来ないだろうに、真砂は左腕には、絶対に誰も触れさせない。
 どんなにやりにくくても、治療は全て一人でする。

 身体に触れられるのを嫌う、というよりは、左腕に触れられるのを嫌う感じだ。
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