君影草~夜香花閑話~
「確かに、あきにとっては初めての任務ですからな」

 中の長老が、顎鬚をしごきながら言う。
 初の任務というのは、失敗がつきものだ。
 だからこそ、手練れの者をつけるのだが。

「男手がないからな。捕えられたら、太刀打ち出来んだろう」

 二人とも、全く武芸が出来ないわけではないが、端から身を隠して屋敷に忍び入る場合と違い、旅芸人のふりをして相手に近づいたのだ。
 そのため、下手に武器は持てない。
 苦無の一本や二本では、話にならないだろう。

「時期的にも、そろそろちゃんと様子を探ったほうがいいか」

 息をついて、真砂が言った。

 あきと千代の帰還が遅いのだ。
 連絡も来ない。
 初めに屋敷に潜入成功、との知らせを受けたきり、消息が途絶えたのだ。

 依頼主からの期限もある。

 連絡係りの矢次郎が様子を探っているが、本来矢次郎は依頼人と真砂らとの繋ぎをつけるだけ。
 乱破としての能力は、そう高くない。
 故に屋敷を外から窺うのが精一杯だ。

 探索方なので周りを見る目は確かだが、その矢次郎を以てしても、外からでは特に件(くだん)の屋敷に変わったところはないという。
 これ以上は、いくら外から探っても、何もわからないだろう。
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