君影草~夜香花閑話~
「そう! あいつ……戦で死んだんだろうね」

 ちょっと声を落とす羽月に、捨吉は、おや、と思った。
 羽月は深成を嫌っていたはずだ。
 戦の前も、深成を殺すよう進言していた。

「頭領の腕を斬り落としたのは大したもんだけど、でもそこまでだよね。あんな小さい奴に、頭領がやられるわけないし」

「……何言ってんだよ。頭領の腕は、深成に斬られたんじゃないよ。あの子がそんなこと、するわけないだろ。それにしても、羽月は深成をやけに敵視してたのに、何か気にしてるね」

「そ、そんなんじゃないよ。そりゃあいつのせいで、おいらは赤っ恥をかかされたけど。その……よく考えたら、別にあいつのせいじゃないな、とも思うし。おいらの腕が劣ってたってことだけど、でも、それはわかっても余計悔しいんだ。あんな小さい、しかも女子に負けたっていうのが」

 羽月もそれなりの経験を経て、相手の力量や己の力を冷静に見られるようになったらしい。
 今は素直に、あのときの己の弱さを認めている。
 が、己の気持ちを素直に言うことが恥ずかしかったようで、羽月は、顔を上げると話を戻した。

「そ、そんなことより。頭領の腕は、あいつに斬られたんじゃないんだ?」

「そうだよ。当然だろ、そんなこと」

 当たり前のように言う捨吉に、羽月は、なぁんだ、と息をついた。
 そして、焼けた蛙を頬張る。

 ちらりと捨吉は、真砂を窺った。
 やはり真砂は、深成を忘れたわけではない。
 今も心に残っているのだ。

 だが深成は帰ってしまった。
 よっぽどのことがない限り、もう会うこともないだろう。

 やはり真砂の気持ちがわからず、捨吉はため息をついた。
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