君影草~夜香花閑話~
 屋敷から離れたところの沼地に死体を捨てると、真砂はあきを振り返った。

「あき、千代はどうした?」

 真砂が問うた瞬間、あきは、がばっと頭を下げた。

「頭領。千代姐さんを、助けてください。お願いします!」

「何があったのだ」

 よく見ると、あきも全くの無傷というわけではないようだ。
 まだ暗く、はっきりとはわからないが。

「千代姐さんは、あたしを逃がすために、再び家老の元へと戻ったんです。でも、屋敷を出たあたしまで殺そうとするんだったら、きっと千代姐さんも殺されてしまいます。屋敷にいたら、孤立無援です。お願いです、早く千代姐さんを助けに行ってください!」

 真砂は空を見上げた。
 そろそろ夜が明ける。

「夜が明けたら無理だ。それまでに何とか出来れば、だがな」

 呟き、真砂は駆け出した。

「羽月、お前も行け。俺も、後から行く」

 捨吉が、あきを気遣って言うが、あきはよろりと立ち上がった。

「あたしは大丈夫よ。あたしも行くわ」

「え、でも」

「頭領を、一人で敵地に乗り込ませる気?」

 言うが早いか、あきも駆け出した。
 あきだって乱破だ。
 常人よりは速い。
 ただ時折辛そうに、速度が落ちるが。

「じゃ、先に行くよ」

 捨吉はあきを追い抜いて、真砂を追った。
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