君影草~夜香花閑話~
「頭領……」

 ふと気付くと、あきがようやく真砂の近くに登ってきたところだった。
 少し下の大ぶりな枝に腰を落ち着けてから、あきは上を向いた。

「やっぱりあたし、戦闘には加われません。まだ下半身がおかしくて」

「ああ。お前の任務は終わっている。気にするな」

「でも見つかるわけにもいきませんから、隠れておきます。あの、多分あいつらが動くのなら、やはり今だと思います。千代姐さんも、そのつもりでしょうし」

 小さく頷き、再び視線を落とした真砂は、唯一見えている屋敷の端の、小屋のような建物から、下男風の男が何かを持って出て行くのを見た。
 男は表門のほうへと姿を消す。

 真砂は身を起こした。
 あきが察し、頷く。

「行ってください。羽月には、あたしが連絡します」

 真砂は軽く枝を蹴って、静かに地に降りた。
 すぐに屋敷の築地塀に張り付く。
 人が歩く音が聞こえた。

 その方向を掴み、真砂は再び屋敷から離れ、傍の茂みに身を隠す。
 程なく、表門の横にある小さな潜り戸が開いた。
 辺りを窺うように、そろりと少し開き、一人の男が顔を出す。

 きょろきょろと通りを見、一旦中に引っ込むと、何か荷物の入った叺(かます)のようなものを括り付けた天秤棒を担いで出てきた。
 二人掛かりで棒の両端を担いで、足早に遠ざかっていく。
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