君影草~夜香花閑話~
 じっと見ていると、少し先の茂みから、捨吉がそろりと姿を現し、二人の後をつけていった。

 真砂はしばらく、屋敷の様子を窺った。
 しん、と静まり返り、もう何の動きも見せない。

 真砂は通りに出た。
 堂々と屋敷の前を通って、通りを歩いていく。

 真砂は普通の着流し姿だ。
 乱破らしい格好はしていないので、普通に歩いていれば、その辺の侍と変わらない。
 もっとも今は、足音は消しているが。

 男たちが出てきた潜り戸の横で、真砂は足を止めた。
 注意深く、木戸を見る。

 ふと、木戸の下のほうに、染みがあるのに気付いた。
 そろ、と撫でてみると、指先に汚れが付く。

 歩き出しながらその指先を見た真砂の目が鋭くなる。
 血だ。

 撫でただけで手に付いたということは、先程ついた染みということだ。
 高さからして、あの叺が汚れていたのだろう。
 叺は、座った状態の人間一人ぐらいは入ることが出来るほどの大きさだった。
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