にじいろオフィスの仕事術
そしてほどなく、初めて課にやってきた彼を見て一番驚いたのは希美だった。

整った顔立ちに、すらっとした背丈、微笑む佇まいはどこか気品すら感じる。

歩けばなぜか良い匂いがする……さわやかなで高そうな“なにか”の匂いだ。

なるほど、噂どおりの『イケメン“わが社の貴公子”』である。





「初めまして」





橋爪慎一です、と名乗る声は甘いフェイスにしては少し低く、色気が漂ったものである。

これからパートナーとして一緒に仕事をする希美としては緊張を煽る以外の何物でもない。



「は、初めまして……みや、下です。よろしくお願いします」

「よろしく」



思いっきりカチコチになった希美を見て、橋爪は口角を上げる。




(うわああぁぁぁ……!!)




それだけの動作で、体温が1℃……いや、3℃くらい上がったようにカッと熱くなる。

そんな乙女心を理解しない課長が、希美に課内の案内をするよう指示した。

裏返った声でそれに返事をして、橋爪を連れて総務課が管理する備品の説明や、仕事内容、給湯室の使い方など端から端まで説明した。

前の部署ではほとんど外回りをしていて中の事情には疎いらしく、橋爪は説明を聞きながら課内を細かく確認しながらメモをとっていた。

そしておおかたの説明が終わったころで、それまで言葉少なだった彼が口を開いた。



「宮下さんは日ごろ何やってるの?」



名前を呼ばれただけで、左胸がドクリと波打つ。

まるで血液が一瞬にして沸点に達したような、そんな感覚。

少しだけ上ずった声で希美は答えた。



「えっと、そうですね…。会社内の備品管理とか課内庶務とか」

「具体的には?」

「具体的に、ですか」



続きを言い淀んでいると、橋爪は急に興味をなくしたように「やっぱりいいや」と一言で遮った。



(なんだろ?)



急な展開についていけず頭の上にクエスチョンを並べると、橋爪は驚くほど “ 面 倒 く さ そ う に ” 首をすくめた。
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