にじいろオフィスの仕事術
「即答できない程度なら聞くまでもないだろ」

「な……!?」




な ん で す と ?




一瞬、耳を疑った。

いま目の前にいるイケメンが言ったんだよね?

心に浮かんだ問いは言葉として発することはできず、金魚のように口をパクパクさせてしまった。






「お手並みは後ほど確認させてもらうから」






そう言った彼の顔からはいつの間にか他所行きの笑顔が消えていた。

それを境に、橋爪はまるで鬼教官のように希美のことをしごき始めたのだった。





電話が鳴れば、

「もっと早く出ろ!」



課長のお茶がなくなれば、

「すぐ声をかけろ!!」



コピーの紙が切れれば、

「朝、補給しておけ!!!」





言い出せばきりがない。

とにかく希美のペースを乱すようなことを日に何回も言ってくるのだ。

その時の希美は課の晒し者で、橋爪の言いつける雑用を歯を食い縛りながら日々こなしていた。

……歯ぎしりする歯も欠けそうな勢いである。





(誰が貴公子だ……鬼! 悪魔!! ハゲてしまえ!!!)





目一杯の悪口を並べてみても鬱憤は晴れない。





そして何より悔しいことに、彼は――…『噂以上』に、仕事ができた。





「橋爪君が来てからいい調子だね~」



課長は無意識だろうが、最近の流行り言葉がこれだ。




(騙されてますよ、課長!!! 奴はイケメンの面をした闇の魔王ですッ)




面と向かってこんなことを言うと絶対何百倍にもなって返ってくるのは目に見えているので、希美は橋爪が背を向ける度に思い付く限りの罵声を心の中で浴びせる。

……しかしそんなことではかすり傷ひとつつけることもできやしない。

なんやかんやとストレスは溜まる一方だ。
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