にじいろオフィスの仕事術
「……しまいには蛍光ペンの在庫が無いことに、『お前なんの仕事してんの?』ってきたもんよ。私は文房具屋じゃないっての!」

「楽しそうね~」

「楽しくないッッッ」



怒鳴り声を聞いた栞奈が、グラスを拭きながら肩をすくめた。



「でも聞けばどれも他愛のないことばかりじゃん、実際のところ頑張ってるの?」

「うーん……まぁ、朝弱いからつい時間ギリギリに出社すると、時間なくていろいろ忘れちゃうこともあるんだけどね」



てへへ、と笑って見せる。

思い返せば学生時代も遅刻常習犯の希美である。

その癖は社会人になってもさほど変わらず、遅刻はしないまでも滑り込みセーフは何回かやらかしたことがある。

それを見込んだ栞奈の言葉は、さすがの親友である。




「本人の意識はどうであれ、見方によっては怠慢だと分かったのは良い勉強になったんじゃない?」

「たいま……ッ!? そんなんじゃないよ!」

「落ち着け落ち着け! 最後まで聞きなさいって。希美は確かに真面目だけど、自分からガツガツ仕事するタイプじゃないでしょ?」



簡単にうなずくのは悔しくて、思わず眉間にしわを寄せる。

それを肯定を受け取り、栞奈は先に続ける。



「今まで可愛く大切に育てられてきて、課内でもチヤホヤされた甘えん坊な姿を見ると、エリートはイライラするものなのよ」

「えー、なにそれ!」



思わずブーイング。

歯に物着せぬ言い方は、学生時代から変わらない。

それにブーブー言いつつも従ってしまうのが希美と栞奈の関係だった。



だから今回の言葉にも反論する気は毛頭ない……が、それですっきりしたかと言われれば、それはまた別問題だ。

消化不良となった気持ちを、栞奈が「芸術!」と作り上げたこんもりと盛られるライスをいじって崩すことで発散させる。

ちなみに今日のお昼のメニューは、ここで人気のナシゴレンである。

世界一周の夢を叶えるべくコツコツとバイトをしている栞奈が企画した、『世界のランチ』のひとつだ。



「お金を稼ぐっていうのはそれだけ大変なことなのよ、気張んなさい」



そんな栞奈が言うことばだからこそ、ずっしりときた。

そして言い終えてすぐ、店の入り口に備えられたベルがカランコロンと賑わった。

数人連れの主婦のグループと、続けて別にOLが入ってくるのが見える。



「ま、ごゆっくり」



栞奈は希美を励ますように笑いかけ仕事に戻っていった。

希美はやり場に困った不満とともにナシゴレンをかきこんで、コップ満杯に注がれた水を勢いよく飲みほした。
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