にじいろオフィスの仕事術
(この一番下……?)
「だめ、手に取らないで答える!」
当たり前のように書類に伸びた手を、橋爪はまるでカルタを本気で取りに行くような素早さでパシンッとはたいた。
思わず「痛いっ」と叫んで手を引っ込める。
「……そんなの、見なきゃ分かりませんよ」
「それがだめだって言ってるんだよ」
むくれて手をさする希美に、橋爪は首を横に振った。
「書類は縦置きが基本。何の書類がどこにあるのか一目で分かるように管理しろ!」
「縦置き……ですか?」
「そうすれば平積みになって押しつぶされた書類が白骨化しないで済むだろ」
言って自分のデスクを見てみろと顎で促す。
彼のデスクは物も多くなくお世辞にもオシャレな雰囲気ではないが、見るからにすっきりと片付いている。
書類はというと、100円均一でも売っていそうなファイルボックスの中にすっぽりとお行儀よく並んでいた。
これが彼の言う『縦置き』である。
各々の書類は見出しラベルが貼られ、支給品のクリアファイルに入っている。
見やすい上にコストパフォーマンスも申し分なく、真似しない理由を見つける方が難しかった。
隣にいて、そんなことにも気付かないほど書類に対して無頓着だった自分に気まずさすら覚える。
「たまにいるだろ、やってない仕事がデスクのどっかから出てきて焦る奴。あれ最低」
はい、それ私です。
さすがにそこまでは怖くて言えず、目を逸らすだけにとどめた。
様子をうかがっていた他の社員も、すかさず目を伏せたのは言うまでもない。
太田に限っては「あいたたた……」と不自然なタイミングで肩を回し始めるくらいである。
「とりあえずやることは山ほどあるが、まずは出来るところからだ」
「はーい……」
「いいか、俺が説明することは一字一句逃さずメモをとれ!」
「はははは…はい!」
背筋を伸ばして、とっさに机の上にあったメモ帳を手に取った。
以前、表紙が真っ赤で可愛いと思い買ったもので、デスクのインテリア化していたものだ。
今までなんとなく置いておくだけで使っていなかった。
――…書類は縦置き、と。
(記念すべき1ページ目ね……)
メモをとってそのページに満足していると、富永が橋爪を呼んだ。
スケジュール帳を掲げ、来い来いと手招きする。
「来週の研修のことなんだけど隣の会議室でちょっといいかしら?」
「あ、はい。すぐ行きます」
言って橋爪は立ち上がる。
希美の後ろを通りすぎる間際に「それ、どうにかしとけよ」と書類を指差して釘を刺すのも忘れなかった。
富永の言う研修とは、たしか情報システム会社が主催するものであったと記憶する。
当分彼の小言を聞かなくて良いかと思うと少しだけほっとした。
しかし……山場はまだ終わっていない。
書類を探すついでに、さっそく机の上に寝そべった奴らを叩き起こしていく。
(縦置き、縦置き……っと)
ひとつずつ確かめ、その後も諦めずマル秘書類を探してみたが、出てくる気配はない。
結局その日は終業のチャイムをむなしく聞くことになった。
「だめ、手に取らないで答える!」
当たり前のように書類に伸びた手を、橋爪はまるでカルタを本気で取りに行くような素早さでパシンッとはたいた。
思わず「痛いっ」と叫んで手を引っ込める。
「……そんなの、見なきゃ分かりませんよ」
「それがだめだって言ってるんだよ」
むくれて手をさする希美に、橋爪は首を横に振った。
「書類は縦置きが基本。何の書類がどこにあるのか一目で分かるように管理しろ!」
「縦置き……ですか?」
「そうすれば平積みになって押しつぶされた書類が白骨化しないで済むだろ」
言って自分のデスクを見てみろと顎で促す。
彼のデスクは物も多くなくお世辞にもオシャレな雰囲気ではないが、見るからにすっきりと片付いている。
書類はというと、100円均一でも売っていそうなファイルボックスの中にすっぽりとお行儀よく並んでいた。
これが彼の言う『縦置き』である。
各々の書類は見出しラベルが貼られ、支給品のクリアファイルに入っている。
見やすい上にコストパフォーマンスも申し分なく、真似しない理由を見つける方が難しかった。
隣にいて、そんなことにも気付かないほど書類に対して無頓着だった自分に気まずさすら覚える。
「たまにいるだろ、やってない仕事がデスクのどっかから出てきて焦る奴。あれ最低」
はい、それ私です。
さすがにそこまでは怖くて言えず、目を逸らすだけにとどめた。
様子をうかがっていた他の社員も、すかさず目を伏せたのは言うまでもない。
太田に限っては「あいたたた……」と不自然なタイミングで肩を回し始めるくらいである。
「とりあえずやることは山ほどあるが、まずは出来るところからだ」
「はーい……」
「いいか、俺が説明することは一字一句逃さずメモをとれ!」
「はははは…はい!」
背筋を伸ばして、とっさに机の上にあったメモ帳を手に取った。
以前、表紙が真っ赤で可愛いと思い買ったもので、デスクのインテリア化していたものだ。
今までなんとなく置いておくだけで使っていなかった。
――…書類は縦置き、と。
(記念すべき1ページ目ね……)
メモをとってそのページに満足していると、富永が橋爪を呼んだ。
スケジュール帳を掲げ、来い来いと手招きする。
「来週の研修のことなんだけど隣の会議室でちょっといいかしら?」
「あ、はい。すぐ行きます」
言って橋爪は立ち上がる。
希美の後ろを通りすぎる間際に「それ、どうにかしとけよ」と書類を指差して釘を刺すのも忘れなかった。
富永の言う研修とは、たしか情報システム会社が主催するものであったと記憶する。
当分彼の小言を聞かなくて良いかと思うと少しだけほっとした。
しかし……山場はまだ終わっていない。
書類を探すついでに、さっそく机の上に寝そべった奴らを叩き起こしていく。
(縦置き、縦置き……っと)
ひとつずつ確かめ、その後も諦めずマル秘書類を探してみたが、出てくる気配はない。
結局その日は終業のチャイムをむなしく聞くことになった。