にじいろオフィスの仕事術
「じゃ、お疲れサンバ~♪」



一番先に軽快に出ていったのは太田で、その後に続くように別の社員も華金に浮き足立つように課を後にする。



「あれ、富永さんは?」

「橋爪さんと一緒に来週の研修の打合せしてます」



マドンナの不在に、他で打ち合わせをして戻った橘田(きった)が目ざとく食いつく。



「橋爪か!  さては抜け駆けだな……!?」



そう睨みをきかせるのは、日ごろ本気か冗談かは定かでないが、富永に恋心を抱く発言をしては物の見事に砕かれている背景がある。

イケメン貴公子が来てからというもの、ことあるごとに心配で仕方ない様子である。

今も胃のあたりをさすって顔を引きつらせている。



「お疲れさーん」



そこに戻ってきた富永に、まるで尻尾を振るように橘田が飛び付いた。



「富永さん、今夜飲みにどうです!?」

「いや、無理」

「そんなぁ……」



毎週末のお決まりのパターンだ。

よく飽きもしないものだと希美も苦笑いしながら、帰る雰囲気に流されてデスクの上にあった文房具などを引き出しの中にしまった。



とはいえ、本当に帰る決心はまだつかない。



書類が見つからないまま課を去るのは、どうにも気が引けた。

浮かない様子を察してか、富永がIDカードを首から外しながら視線を向ける。



「宮下ちゃんは残業?」

「いいえ、そういうわけじゃ……」



曖昧に否定して視線を外すと、ちょうどコーヒーを注いで戻ってきた橋爪と目が合う。

彼の手にはもうひとつ紙コップが握られている。

それを乱暴に渡されて、驚いた。



「宮下、時間あるなら俺がいない間の引き継ぎするからちょっと残れ」

「えっ……」
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