社長に好きだと言われたら
「わ、わたし!頑張ります!」
凛々が頑張ると決意をしたのは
もちろん部署の拡大への一歩もあるが
何より凛々は子供が好きだ。
大きな企画はたくさんの
子供と関われたり喜ばせる
ことができたり‥凛々にとっては
恐ろしいプレッシャーだが
ほんの少しワクワクしていた。
「倉嶋、その調子だ!
あ、あと今日はもう帰っていいぞ。」
こんな大きな企画の前だ、
疲れを休めてくれ、と上司は続け
資料を渡され頑張れと笑った。
そして倉嶋凛々は定時より少し早く
帰路についたのだった。
「ただいまーー。」
とっくに帰っていた凛々の、耳に
よく知れた声は響いた。
凛々がおかえりと呟くと
友はその不自然さに気がつく。
「あれっ、凛々もう帰ってたの?」
早退したの?調子が悪いの?と
ちょこまこかと動く回る友に
凛々は自然と笑みが出る。
友は凛々と同じ会社に勤め
大体凛々より早く帰宅し
缶ビールとお友達になっているのだ。
「今日は定時より早く帰れたのー。莉央こそ今日は早いね。」
友、もとい莉央は好物である
アイスも片手に缶ビールの栓を
開けようとしていた。
「だぁってーー今日は私がご飯当番だもん!それよりさーあ、凛々、おもちゃメーカーとのコラボ企画の話知ってる?」
凛々は発す言葉に迷った。
知ってるも何も‥‥と思ったが
話したら質問攻めに遭うに違いない。
でも何を聞かれても逆に
凛々が聞きたいくらいなのだ。
「あの‥莉央、えっとね‥‥。」
「コラボ企画に参加するーーー?!
は?!!??なんで?!!!?
凛々が???!!!?なんで?!!」
こればかりは凛々の思惑どうりだった。
恐ろしいばかりの質問攻めに
たじたじになるが凛々は
何もわからないと一蹴するしかない。
「凛々!この企画はね、ほとんどの打ち合わせに双方の社長同士と幹部が参加するそんなそんな大ーーーきなものなのよ!」
それなのになんで凛々が!と
喚く莉央であるが凛々は
そんなこと気にもならなかった。
ただ、凛々は憂鬱が増したのだ。
凛々は自社の社長が苦手であった。
美しい顔立ち。
背も高く声すらも聞いた者を
魅了するテノール歌手のような
どうどうとしたもので。
髪型すらも社長のくせに
お洒落で、荒れた所なんて
見たことがない。
話たことはないし彼の性格なんて
凛々は知らない、だが凛々は
彼について確信を得ていた。
女なら誰でも自分に惚れると思ってて
金、権力、美貌こんな全て持っている
自分は誰よりもすごい!!と
思っているに違いない。
人を見下して鼻で笑っているのだろう。
そんな逆に盲目にも見える
思惑のせいで凛々は彼が苦手であった。
イケメン社長に甘い声をあげる
凛々の周りの女子達とは
正反対の気持ちであった。
「凛々!気をつけてね。うちの社長もそうだけど、取り引き先のおもちゃメーカーの社長は超イケメンで女入れ食いって話よ!」
気をつけるもなにも、遊び相手
にすらされないと笑う凛々が
笑えなくなる事態になることは
まだ知らないのである。