昨日の友は今日の恋人!?~甘い視線で迫られて~
いつもの明るい桜とは思えないくらいの低い声に、思わず桜の顔を見つめてしまう。

彼女はため息交じりに、中ジョッキのビールをぐびぐびと飲みはじめた。

「だってね~男どもがいないところじゃ『料理とかぁ、あんまりしたことなくって~野菜ってどうやってきるんですかぁ?』って。そんなの、包丁で切るに決まってんでしょうよっ。『三崎さんすご~い、だてにトシ食ってませんね』的なことまで言われたのよっ?」

……桜さん、かん高い声で毒を吐かれたんだ。

「でも、家族連れのひとたちがいたら、アットホームだったんじゃないの?」

「猿みたいに駆け回ったあげく、いたずらして喧嘩し始める子供たちがいるのに?」

桜は大きな瞳を一層大きく見開く。

「結婚前はお洒落できれいだった先輩はヒス起こしてるし、もう片方の家族は子ども放置して、ここぞとばかりに酒飲んでるし。そのうちファミリーで来ている人たちが、なんだか社内恋愛後のなれの果てみたいに見えてきて気分が落ちるし最っ悪」

「それは…また。……桜、ほら。焼けたの食べて」

憤慨する桜の皿に、ほどよく焼けたカルビを乗っけてやると、彼女は勢いよく熱い肉を口に放り込んだ。肉が熱いせいなのか悔しさのあまりなのか分からないけど、桜の目は潤んでいる。

「……っていうか私はそもそも参加するつもりなんてなかったのに。タカちゃんに頼まれたからやむなくって感じだったのよ。それなのにあの人ときたら自分の課の女の子には甘いし、ほんっとにイラついた」
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