ミステリー
すると建物のドアが一人で勢いよく開き、
彼女を建物の中へ吸い込むと
バタン!と、閉じました。


建物の中は薄暗く埃だらけ。


棚の上に、何種類かの靴が置いてあり、
靴も埃をかぶってます。



そして、靴の置いてある棚の後ろから、一人の青白い顔をした青年が出てきます。

いえ、正確に言えば、青年の幽霊です。


青年の体は透けています。



『ようやっと見つけたよ、僕の、僕のハニー。
僕の作ったその靴がぴったりの、ハニー。』



青年が、ゆっくり彼女に近づいてきます。


『さあ、僕と共に行こう。』

彼女は逃げたいけど、なぜか、動くことが全くできませんでした。


青年が彼女に手を差し出したその時
ドアが勢いよく開き、
青年に、ブレスレットのようなものが飛びます。


『わあっ』

青年はブレスレットがひたいに当たると
うずくまります。


彼女が驚いて振り向くと、
隣の家に住む、イケメンだけど少しお調子者な青年です。


『どうして・・・あなた?』


『君が、ガラスの靴はいて歩いているのを見て、あとをつけてきたんだよ、
そのガラスの靴の話、聞いたことあるんだ。


昔、靴屋を営んでいる優しい青年がいたけど、結婚前提で交際していた女の人が、結婚の何日か前に急に別の男性と駆け落ちして、
そのことに悲しんで傷ついてしまった青年は、ある日とぼとぼと町を歩いてたら、ひき逃げされて亡くなったんだ。
靴屋の青年は、生前、結婚するはずだった女性の足のサイズに合わせてガラスの靴を作っていた。
そのガラスの靴がぴったりと合う女性を、靴屋の青年の幽霊は、探し続けている、って!』

隣の家の青年が話します。
よく見ると彼は、汗だくで服も靴も汚れてます。
彼女が心配で、一生懸命追いかけてくれたのが、その様子からよくわかります。


『そうなの…、少し気の毒だわ、彼が。』

彼女が、靴屋の青年の幽霊に、目をやります。



すると、隣の家の青年は、今度は、
さっきのブレスレットとは違う、明るい光を放つブレスレットを
靴屋の青年の幽霊に差し出します。


『君も長いこと悲しくつらかっただろうね。
だけどこの人は、君を捨てた女の人じゃない、
こんなことしてても君は
報われない。』

と、隣の家の青年が、靴屋の青年の幽霊に優しく言います。


すると、明るい光を放つブレスレットが、靴屋の青年の幽霊の体を明るく優しい光で包みます。


『その・・・とおりだね・・・・ごめんなさい・・・・
そしてありがとう』


靴屋の青年の幽霊は、次の瞬間には見えなくなります。
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