ミステリー
妖精
『ようやく眠ってくれたね…。』

『ええ、でも、仕方ないわね、


赤ん坊だもの。



あたしたちにもそういう時期が、
あったのよね。



ただ、あたしたちが覚えていないってだけで。』




『そうだねえ。


僕は独身の時、というかあの子が生まれる前は、育児をかなり甘く見てたよ。

まさか赤ちゃんがこんなにぐずると思わなかったよ。


赤ちゃんは、ミルクを飲む時とオムツを取り替える時以外は、ずっとスヤスヤと 静かに眠ってるものと、
とんだ勘違いをしていたよお。


僕は大きな勘違いをしてた・・・・赤ちゃんの子守りがここまで骨の折れる大仕事とは思ってもいなかった。』


『あたしもそうだわ、
上にしか兄弟姉妹がいないから、赤ちゃんの、というか子どもの世話を、かなり、
甘くみていたわ。』


『僕も兄さんと二人の姉さんしかいないから、
下の兄弟姉妹の面倒、見たことないや。

母さんや父さんや、
兄さんや姉さんも、きっと僕の面倒見たとき大変だったんだ・・・・・。』




とある土曜日。
ようやく眠った生後三カ月の長女の
ベビーベッドの横の
ソファに腰掛け、
缶紅茶を飲んでいるのは、少しやつれた
昇(のぼる•33歳)と美紀(34歳)夫妻。



長女は、今朝からかなりぐずって大泣きしており、
オムツを替えても、授乳しても、あやしても
大泣き、ぐずるのが―その大泣きと言ったら、台風や悪魔でもくるりっと向きを変えて
逃げていきそうなほどの勢いの大泣きだった―
しばらく続いてたのだ。


また、長女が夜泣きをするので
美紀は何時間かおきに
授乳しなくてはならなかった夜も
何度かある。
もっとも、長女が生まれてからは、昇も率先して朝食作りや洗濯や、掃除機がけやモップがけや、ゴミ出しやアイロンがけをしてくれるため、
美紀はかなり助かってる。


美紀が昇に
ありがとう、助かった、
というと

昇は微笑み、
ありがとう、助かってるよなら、
それはお互い様だよ、
美紀ちゃんに普段から僕こそ
どれほど支えられてるかわからない、
今は大変な時だから、なおさら、支え合おう、
美紀ちゃんも、この子を産んでくれてありがとう
と笑顔で言った。

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