恋は盲目 Ⅲ 〜密やかな愛〜
シャツを羽織り、身なりをなおすと寝て
いる美鈴の唇に最後のキスを落とした。
愛していると囁き、部屋を後にした。
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スタッフにテーブルを案内させ、俺はカ
ウンターから美鈴と距離を置いて見てい
た。
ここにいるスタッフ達は美鈴を知らない。
それが救いだ。
誰か1人でもいれば、必然に会話しなけ
ればならない。
無理する美鈴を見たくないから良かった
と思う。
あれから彼女は、恋する男を忘れ前に進
めたのだろうか?
俺はあの日から立ち止まったまま前に進
めない。
美鈴の代わりに抱いた女達では、美鈴を
忘れることができなかった。
浩輔とも自然に距離を置いて、関わらな
いよう努力してきた。
浩輔を見るとあいつの代わりに美鈴を抱
いた日を思い出してしまう。
なぜ、あんなひどいことができたのかと
後悔で胸が締め付けられる。
なぜ、彼女はここに足を入れることにし
たのだ⁈
常連から美鈴が101ビルの紳士服店で働
いていると聞いていた。
近くにいるのにあれから今までここを訪
れなかった。
なのに…突然3年ぶりに…。
彼女に気を取られ連れの女に気づかなか
った。
確か、ランチの時間によく来る女の1人
で、この間、雅樹とカウンターにいた早
希だ。
2人は、コーヒーを頼みコソコソと話し
始めた。
何を話しているのか気になるが、仕事に
集中する。
でないと冷静でいられない。
その日から毎日、夜になると美鈴は1人
で店に来て、カウンターでカクテルを頼
み1時間程で帰っていく。
無言のまま1人で酒を飲む美鈴。
何を考えているのだろうか?
お客と店員の距離をとったまま、ひたす
ら注文するカクテルを作っていた。
10日ほどたったある日、いつものように
カウンターに座りカクテルを頼む美鈴。
「マスター‥ミモザお願い」
彼女がいつも頼むカクテルはシャンパン
ベースの柑橘類(みかんやネーブル)を絞
り、この世で贅沢なオレンジジュースと
言われる飲み物だ。
強いお酒でもないカクテルをなぜ頼むの
か?
こうしてミモザを無言で何杯か飲み、帰
っていくだけを繰り返す彼女がわからな
い。
ミモザの花言葉…密やかな愛
まだ、忘れられないのか⁈