恋は盲目 Ⅲ 〜密やかな愛〜

「あっ、あのね。バイト‥しようと思っ

て…。ほら、私、就職浪人だからお姉ち

ゃんに何かお祝いしてあげたいのにお金

ないし、それでバイトしてプレゼントを

あげようと思ってたらここのお店募集し

てるから…。」


納得している大輔。


「マスターは、中にいるからお願いして

きたらどうだ⁈」


「うん…そうだね。…ありがとう。行っ

てくる。あっ、さっきの話、お姉ちゃん

に内緒ね」


「あぁ、頑張れよ。じゃあな。」


彼の言葉にうれしいはずなのに、下心丸

出しの心を彼に気づかれないか不安だっ

た。


はじめは、見ているだけでよかったのに

…彼を知っていくと好きになってもらえ

る訳がないと思いながら、彼の側にいた

くて、どんどん欲張りになって邪な考え

を持ってしまう。


これが、恋というものなのだろうか⁈


彼の心が欲しくて、彼に認めてもらいた

くて、少しでも長く側にいたくて仕事を

頑張った。


仕事を覚えながら常連さんの顔と好みを

覚え、笑顔を絶やさず接客に専念すると

彼に認めてもらえたのか、お前から美鈴

に名前が昇格した。


彼にお前呼ばわりをされるのも好きだっ

たけど、あの低音ボイスで美鈴と呼ばれ

るだけで、頬が赤く染まってしまう。


あの声で愛を囁かれたら、私は気を失っ

てしまうのではないかと思うぐらい、彼

に夢中になっていた。


そんなある日の朝


いつものように朝のミーティング中に、

マスターと大輔さんから報告を受けた。

マスターが引退し、大輔さんが新たなマ

スターとしてお店を引き継ぎ、カフェ&

ダイニングバーとしてリニューアルオー

プンするということだった。


彼の助けになりたくて、遅くまで新メニ

ューの手伝いを進んでした。


「美鈴、サンキュー。お前のおかげでメ

ニューができたよ。お礼に何かしようと

思うが何がいい?」


「お礼なんていいです。大輔さん…マス

ターが真面目に仕事してくれたらそれで

いいです」

彼がモテるのはお客として見ていた時か

らわかっていた。だけど、私以外の女と

仲良く会話しているのは面白くなかった。

だからいつも、仕事中にもかかわらず女

と仲良くしている彼に苛立ち、邪魔をし

ていた。

私の気持ちを知らない彼は、不機嫌にな

ると子供の喧嘩のように彼と言い合いに

なり、他のスタッフを呆れさせていた。


「大輔さんも美鈴ちゃんに注意されたら

少しぐらい気をつければいいのにムキに

なってるし、美鈴ちゃんもあれが大輔さ

んの営業トークだってわかってないって

言うか…痴話げんかは閉店後にしてほし

いよ」
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