恋は盲目 Ⅲ 〜密やかな愛〜
「だい…マスター⁈」
大輔と呼びたかった。
彼の顔がそれを拒絶しているようで、マ
スターと呼び直したのに彼は去っていく
。
うそ⁈ どうして⁇
しばらく動けずにいた。
戻る気配がないとわかると涙が頬をつた
っていく。
乱れた服をなおすとそこに彼が私の荷物
を持って立っていた。
腕を掴まれそのまま外に連れ出され、荷
物が投げ込まれた。
「もう、お前は来なくていい。お祝い用
の資金もできただろう…残りは振り込ん
でおくからクビだ」
「ど、どうして…いや…側にいたいの」
なぜ、私の思いは伝わらいのだろう?
「無理だな…会うのは浩輔達の結婚式が
最後だ。その後は、俺の前にもう現れる
な…」
冷たく言い放たれ扉がしまった。
どう歩いたのか泣きながらも部屋にたた
ずんでいた。
姉に心配をかけたくなくて、ただ、大輔
さんに振られたとしか言えず、彼に会う
最後の日を迎えてしまった。
姉も浩輔さんも残念がってくれたが、彼
の心に私は必要ではなかったのだ。
2人の結婚式も終わり、披露宴が始まっ
た。
式場では、彼の側にいるのが辛く距離を
とっていたのに、披露宴会場の席は無慈
悲で背後に彼がいるのだ。
我慢できた時間も浩輔さんが愛の誓いを
宣誓する時には、私には大輔さんと思い
描くことができないのだと悲しくなり、
声をおさえ、涙を流した。
周りは、妹が感動して涙を流していると
思っているのに、彼の手が背後から私の
手を掴み手のひらを握ってきた。
彼がわからない。
突き放したくせに、優しくするなんてあ
なたは何を考えているの⁈
その手を残酷に離す彼。
離すぐらいなら優しく手をつないで欲し
くなかった。
悲しみを通り越し、怒りしか出てこない。
あなたが私をそんな扱いをするなら、も
う、あなたに何も求めない。
だから…最初で最後いいからあなたに抱
かれて、全てを忘れるわ。
披露宴が終わり、彼に小声で呟いた。
「503号室に来て」
姉の結婚で住む部屋が無くなった私の仮
の宿。
明日から、オーナーが(大輔の祖父)貸し
てくれる部屋で新しい自分になるために
彼に抱かれるのだ。