恋は盲目 Ⅲ 〜密やかな愛〜
部屋に来た彼に最初で最後だからとお願
いして抱かれた。
背後から私を包む温かな温もり。
早く、ここから消えて…あなたにすがり
つきたくなる前に…。
シャツを羽織り、身なりをなおすと唇に
キスを落とし囁く大輔。
『愛している』
うそ⁈
何かの間違いではないの⁈
出て行く彼の背中をただ見つめていた。
愛していると囁いても、私を必要としな
いなら彼の側にいるべきではない。
ただ、これからも変わらずあなたを愛し
ている。
新しい恋ができるまで…。
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スタッフに案内され、早希ちゃんと席に
つく。
相談があるからと連れてこられる店が、
ここだとは思いもせず着いてきた。
はじめは、入るのをためらったが事情を
知らない彼女に説明するのも面倒で、彼
を無視すればいいだけだと決意し、扉を
開け入ったが、彼の姿に目を奪われ身体
が反応する。
久しぶりとか元気⁈だとかそんな言葉を
期待してた訳じゃないけど、彼の態度に
苛立った。
せめて、お客として接客してほしいのに
忙しい訳でもない彼がスタッフに任せ、
カウンターの中で雑誌を見ている。
そこまでして、私を無視するのだ。
あの日『愛してる』と囁いてくれた彼は
もう、いないのだろうか⁈
早希ちゃんからの合コンの話を聞きなが
ら、3年前を思い出していた。
その日から毎日、夜になると1人で店に
行き、カウンターでカクテルを頼むよう
になった。
1度足を踏み入れてしまえば、3年も躊
躇していたことがバカらしく思え、もう
一度彼に思いの丈をぶつけようと誓った
のだ。
彼は、お客と店員の距離をとったまま、
ひたすら注文するカクテルを作っていた
10日も無視され、苛立ちが強くなる。
「マスター‥ミモザお願い」
ミモザの花言葉…密やかな愛
カクテルを作る彼が花言葉知らないはず
はない。私の気持ちが伝わればといいの
にと毎回頼んでいるのに、伝わらない。
「ねぇ、いつまでシカトするつもり⁈」
「……なんのことですか?」
徹底的に店員の立場にたつつもりなのね。
「ミモザ、おかわりお願い」
カクテルを作る作業を見つめる。
「お待たせしました」
グラスを差し出し、目を合わせないまま
空いたグラスをさげる彼のネクタイを掴
み彼の唇にキスをすれば、彼は拒まない
『こほん』と、わざとらしく咳払いが聞
こえた。
「大輔さん…店でお客に手を出したらダ
メだって俺に言いませんでしたか?」
カウンターにいる男がキスを止めた。
ネクタイを掴む指を解き、唇を離してい
く大輔が頭部を撫でカウンターの男の元
に行ってしまった。
行き場のない気持ちと一緒にカウンター
にお金をおいて店を出た。
拒絶する訳でもない。
彼の心がわからないまま、七夕になって
しまった。