恋は盲目 Ⅲ 〜密やかな愛〜
祖父は俺に店を任せ始め、忙しくない限
りは常連さんと将棋をしたり、新聞を読
んで過ごすか外へ出て行くためキッチン
で料理を作るは俺の仕事になっていた。
美鈴は、接客業が天職だと思うぐらい、
モノ覚えも早く、お客への対応も丁寧で
美鈴目当ての客が出てくるほどだった。
「はい、お待たせ。」
カウンターから料理を出すと急いで美鈴
は、お客のもとへ料理を運ぶ。
「お待たせしました。ナポリタンです」
笑顔で元気な彼女にお客は微笑む。
「美鈴ちゃんの笑顔で元気になるよ」
「私の方こそ酒井さんにいつも元気をも
らっているのでありがとうございます」
昔からの常連さんの酒井さんは、美鈴を
お気に入りのようで孫のように可愛がっ
ている。
「今日もマスターはいないのかい?」
「はい、私も最近会っていないんです」
「そうか、跡取りいるからマスターもそ
ろそろ引退考えてるんだな⁈」
「跡取り⁈ですか?」
「そう、大輔君が跡を継ぐらしいよ」
「えっ、本当ですか?」
「酒井さん、俺なんてまだまだですよ」
美鈴が酒井さんにつかまっているので、
俺はホールに出ていた。
「そうかい?このナポリタンはマスター
に負けないぐらい美味しいと思うよ」
「ありがとうございます。酒井さんにそ
う言ってもらえると自信になります」
笑みを浮かべる酒井さん。
「お店を大輔君に任せて引退ってマスタ
ーに聞いたからてっきり…」
「まだ先の話ですよ。バーテンダーの修
行中の為に祖父にはまだまだ現役でいて
もらわないと困りますから…」
「祖父⁈」
美鈴が突然、調子のずれた声をあげる。
「あれ…美鈴ちゃん知らなかったのかい
⁈大輔君はマスターの孫なんだよ」
さらに驚く美鈴は口が開いたままだ。
「バイト達は知らないのでここだけの話
でお願いしますね」
口に人差し指を立て、酒井さんと美鈴に
念を押し、ごゆっくりと挨拶すると他の
お客への接客に向かう。
夕方からのピークも過ぎ、21時を回ると
店内はお客も減り、俺は22時の閉店に向
けキッチンの片付けから始める。
ホールでは、美鈴ともう1人のバイトで
接客しながら店内を片付けていた。
俺が跡を継げば、ここをダイニングバー
にするつもりだ。
駅が新しくなり近くの繁華街の中で喫茶
店では、これからの飲食業界では生き残
っていけない。