恋は盲目 Ⅲ 〜密やかな愛〜
高層ビルが建ち並び始め、つい最近地上
101mのビルが建った。
最上階には、ガラス張りのレストランが
あるらしく夜景を見渡せるらしい。
これから、新しいお店が次々とオープン
して行くだろう。
その中で勝ち残ってこそ、意味があるの
だ。それは、祖父もわかっている。
だからこそ俺に早く引き継ぎたいらしい
が、まだまだバーテンダーとして修行中
の身としては任せてほしいとは言えずに
いた。
「美鈴、俺行くから後頼むな‼︎」
「あっ、はい…行ってらっしゃい」
22時になり、closeの看板を出し俺は後
を美鈴達に任せ修行に行っているバーへ
向かった。
「大輔、お前ここに来て何年になる⁈」
「2年ですけど、英二さん突然、どうし
たんです?」
俺がお世話なっている英二さんは、バー
テンダーとして尊敬する先輩だ。
数年前にこの店を立ち上げ、30過ぎだ
というのに立派に経営者として成功して
いる。
彼から学ぶことはたくさんある。
バーテンダーとしての技術と知識もそう
だが、祖父とは違い若い視点での経営学
を彼から学んでいる。
「お前もそろそろ卒業だと思ってな」
「そんな、俺なんてまだまだですよ。英
二さんにもっと教わりたいのに、突然ど
うしたんです?」
「この店を閉めようと思う‼︎」
「なんでですか?お客の入りいいじゃな
いですか⁈」
「そうなんだが、101ビルが建っただろ
う⁈そこの上のレストランから引き抜き
があった。今の女と結婚する為にもそこ
で就職した方がいいと思ってな‼︎」
そうか…愛する女を幸せにしたいと思う
ことは不安定な仕事よりも安定した就職
先を選ぶということなのか?
俺にはわからない。
英二さんも浩輔も女の為に変わろうとし
ている。
「いつから行くんですか?」
「今月末でここは終わりだ」
「そんな急にですか?もう5日もないじ
ゃないですか⁈」
「あぁ、すまない。お前ならもう大丈夫
だ。爺さんの為にもお前の店を作ってく
れ…そのうち、客としてお前の店に顔出
すからその時には俺に酒作ってくれよ」
「…………」
俺は何も言えず頷くしかなかった。
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あの日から俺は店の構想図を思い描くよ
うになり、祖父に店を任せてほしいと頼
むとひとつ返事で承諾を得た。
その後すぐに業者と話を進め始めた。
店を何日も閉める訳にはいかない。