恋は盲目 Ⅲ 〜密やかな愛〜

「マスターって何歳なんですか?」


女の客がまとわりつく。


「何歳に見えますか?」


「えー、顎髭で老けて見えるけど、まだ

若いですよね。28とか⁈」


「そんなところですかね」


微笑む大輔に声を上げ喜ぶお客。


「じゃあ、彼女さんいるんですか?」


聞き耳をたてていた美鈴の手が震える。


「えぇ、一緒に住んでるんですよ」


「『えーーー』ショック。タイプだった

のに…」


がっかりするお客と同時に美鈴も声を殺

して驚いている。


(何を驚いているんだか⁈)


「そう言ってもらえるとうれしいですが

当店はお客様に心地よい空間でリラック

スして頂くのが名前の由来なんです。で

すから、いつでもお客様の疲れを癒しに

来てください。その時は、精いっぱいお

もてなしさせて頂きます」


俺はお客に微笑む。


今しがたショックを受けていたお客は、

俺の言葉に頬を染め頷いていた。


美鈴に相手にされない男性客は諦め、次

の獲物を見つけ去って行っていくとホッ

とする。



「大輔さん…ビールお願いします」


いつの間にか、目の前には女連れの雅樹

がいた。


「いらっしゃい…彼女もビールでいいの

?」


連れの女に確認する大輔。


「えー、わたし〜ビールよりカクテルが

飲みたい。ねぇ、何がいい?」


雅樹の腕に擦り寄り、計算された角度で

雅樹を見つめる女。


そんな女に優しく微笑む雅樹だが、目が

笑っていない。


(そんな冷たい目をするなら、女遊びをや

めて本気の相手を捜せばいい。例えば、

早希って女。彼女といる時のこいつは心

底楽しんでいた。まぁ、こいつがどんな

女と付き合おうがどうでもいいが…ほん

の数日前の俺もたいして変わらなかった

か⁈)


「雅樹さんのオススメでもお願いしたら

どう?」


オススメと言う言葉に色めき立つ女の前

で面倒な無茶振りにため息をつく大輔。


「さて、何にしましょうか⁈さっぱり系

?甘い系?『甘いのが飲みやすそう』」


「甘い系ですね」


「大輔さん…首、どうしたんですか?」


自分の首を指さし位置を教える雅樹。


(あぁ、そこか)


「飼い始めたペットにやられたみたいだ

な」


「どんなペットなの?」


連れの女が聞いてきた。

< 41 / 58 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop