恋は盲目 Ⅲ 〜密やかな愛〜
また、重ねて見てるのか⁈
「俺は、浩輔じゃない。そんなに浩輔が
いいなら姉貴から奪って自分のものにし
ろよ。出て行け…」
冷たく言い放っち美鈴に背を向ける。
「…出て行くわよ。出て行けばいいんで
しょう…大輔のバカ。わからずや。」
美鈴の絞り出す声にも反応しないでいる
と…
「さよなら…」
バタンと勢いよくドアを閉めて出て行っ
てしまう。
「クソッ‥」
手に持っていた鍵を床に叩きつけた。
あんなことをいうつもりなんてなかった
のに、気づけば、売り言葉に買い言葉じ
ゃないが、カッとなり口に出してしまっ
た。
今は、冷静に話なんてできない。
きっと、美鈴もそうだろう。
冷静になれば、また、戻ってきて笑顔で
俺の名前を呼ぶだろうと高をくくってい
た。
それなのに、2日、3日、一週間経つの
に美鈴は、部屋にも店にも現れない。
「いらっしゃいませ」
そこに現れたのは早希ちゃんだった。
「この間は、美鈴が迷惑かけたね」
「いえ、そんなことないです。」
美鈴と再会し、2人の気持ちが通じ合っ
たあの日が、つい最近なのに昔のように
感じていた。
「今日は、何にする?」
「そうですね。私、もっぱらビール派な
のでカクテル詳しくないんです。変わっ
たビールってありますか?」
「あるよ。……ところで今日は待ち合わ
せ⁈」
「はい、飯島さんとなんです」
そういえば、あの日の合コンから頻繁に
女連れで遊んでいた雅樹を思い出す。
「……そう。あいつに深入りしないほう
がいいよ。悪い奴じゃないけど……」
なにか、心に傷を負っている雅樹は、女
を愛せない。
「まぁ、俺が偉そうに言う事じゃないん
だけど、美鈴の同僚だし忠告だけね」
俺がとやかく言うことじゃない。どうな
ろうが2人の問題なのに美鈴と重ねて忠
告してしまった。
俺は、また美鈴を傷つけてしまった後悔
で、これ以上深く彼女とは関わらず会わ
ない方がいいのではと考えはじめていた
。だから、余計なことを早希ちゃんに言
ってしまったのだ。
彼女のイメージでパナシェ(レモンを絞り
ソーダとビールを混ぜる)を出した。
「美味しい…スッキリしてて飲みやすい
です」
「気に入ってもらえてよかった」
美鈴は何をしているだろうか?
つい、美鈴のことを考えてしまう。
21時を過ぎてやっと雅樹が女連れで現れ
た。