恋は盲目 Ⅲ 〜密やかな愛〜

そう言うと浩輔は手を振り帰って行った。


繋いだ手を引き俺の部屋に向かう。


美鈴の部屋でも良かったのかもしれない

が、俺の部屋はもう2人の住む家になっ

ていたのだ。


美鈴の残像が見えるほど当たり前になっ

てしまった空間。


美鈴の持ち物で溢れてきていた寝室での

ひとり寝の孤独感は辛かったほどだ。


手を繋いだまま逃げようとしない美鈴も

同じ気持ちでいてくれると信じたい。


さよなら…と言った言葉は間違いなのだ

と…。


部屋の鍵を開け、美鈴を引き入れると、

我慢できずに玄関先で美鈴を抱きしめる

腕に力を入れた。


「ごめん…俺が悪かった」


「………」


ヒクッ‥ヒクッと泣きだす美鈴。


気の強い彼女が泣いている。


泣かせるほど、俺はひどいことを彼女に

言ってしまったのだ。


「泣かせて…ごめん。俺を嫌いになって

も仕方ないと思っている。でも、俺は美

鈴を愛してる。お前がいないとダメなん

だ」


言い訳なんてしない。


俺の今の気持ちだから、どうか受け止め

てほしい。


美鈴の涙を指で拭き取り、美鈴が話しだ

すのを待った。


「…私の方こそごめんなさい。大輔を浩

輔さんと比べたりしてごめんなさい。違

うのに…女心がわからない大輔にイラつ

いてあんなひどいことを言って……さよ

なら…って言ったのも本気じゃないの」


「…あぁ、わかってる」


美鈴の頭部を何度も撫で背中をさすりな

だめる。


わかってる…大丈夫、俺たちは大丈夫だ

…離れたりしない。


「ごめんな」


「うん…許してあげる。こうして迎えに

来てくれたんだもの」


そう言って俺の背に腕を回しぎゅっと抱

きしめ返す美鈴がかわいい。


「家出したかわいいペットを探すのは飼

い主の責任だろう。もう、心配させるな

よ」


「もう…まだごっこなの⁈」


頬を膨らませる美鈴。


「嫌か⁈それなら俺の嫁になるか?」


「……今‥なんて言ったの?」


目を大きくさせ、驚く美鈴。


だが、言った本人も驚いている。


「……俺と結婚してここで暮らそう」


「本当に⁈」


「あぁ‥」


「嬉しい。大輔のお嫁さんになる」


「なら、今から奥さんとして愛してやる

よ」


意地悪く笑みを浮かべる大輔。


美鈴に触れずにずっといたんだ。


覚悟しろよ。
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