恋は盲目 Ⅲ 〜密やかな愛〜
拓海は奈々ちゃんの手を握り1度こっち
らを見て出て行った。
残された雅樹と早希ちゃんから目が離せ
ない。
「逃げるな…。」
「話す必要ないわよ。昨日のあれは忘れ
て…。」
席を立ち、カウンターに来る早希ちゃん
の目から溢れる涙。
「早希ちゃん、大丈夫⁇」
顔をあげる早希ちゃんの頬を涙がつたう。
「涙が出てるよ。」
慌てて背後から早希ちゃんを抱きしめる
雅樹。
「大輔さん、ごめん。今度払うから今す
ぐこいつ連れて行っていい⁈」
「あぁ、ちゃんと早希ちゃんと話して来
い。」
ついこの間、似たような光景を体験した
ことを思い出し笑いが止まらない。
浩輔に諭された言葉と同じように雅樹に
諭すとは…。
雅樹は、早希ちゃんの手を強く握り連れ
出した。
2人がうまくいくことを祈るだけだ。
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翌日、雅樹が女連れであらわれた。
昨日の今日で、お前は何をしているんだ
と怒りが湧いてくる。
そこに、ズカズカと美鈴が雅樹の前に出
て行く。
「ちょっと、飯島さん…昨日の今日で女
連れってどういうこと⁈」
腰に手をあて怒り始める美鈴。
ちょうど中途半端な時間帯の為、お客は
まばらだからいいが、もう少し経てばお
酒を飲みに来る客でいっぱいになる。
「あれ⁈花村さん…仕事お休み⁈」
「そんなことどうでもいいでしょう。ど
ういうことか説明しなさいよ」
「あー、そういうこと」
なんのことか理解した雅樹。
「俺の妹なんで…」
「えっ…」
早とちりした美鈴。
そういう俺も勘違いしていた。
美鈴の背後から雅樹に謝る。
「雅樹、早とちりしてすまん」
美鈴の頭を下げ、一緒に謝る。
「いえ、自業自得なんで気にしないでく
ださい」
少し悲しそうに見えたのは気のせいなの
か⁈
ふと感じた思いを振り払い、雅樹達にコ
ーヒーをお詫びとして出した。
深刻な表情の2人。
雅樹は、何かを抱えているようだ。
店内はにぎわい出した頃、早希ちゃんが
カウンターめがけやってきた。
「早希ちゃん、いらっしゃい」
すぐ側に雅樹がいることも気づかないま
ま話し出す。
そんな早希ちゃんを暖かく見つめる雅樹
は、自分がいることを内緒にするように
口に人差し指を立てた。
いたずらを思いついた俺は、頷いた。