恋は盲目 Ⅲ 〜密やかな愛〜


「……うん。このトマトクリームのソー

ス海老のエキスが出てて美味しい。ちゃ

んとトマトの酸味もあるのにまろやかだ

しパスタにもオムライスにも合うわ」


「よかった。美鈴が言うなら間違いない

な」


「あら、それはどうも…」


照れてる美鈴は、頬を赤らめわざとつん

けんする。


まぁ、ほとんどが味見だが美鈴の舌は嘘

を言わない。


いや、美鈴の性格上嘘はつけないの間違

いだ。


気の強い性格のため、間違いは許せない

のか仕事中でも何度も俺に食ってかかる

奴だ。


だから、信用できる。


不味い物は不味いといい、美味しい物は

大きな目をさらに大きくし美味しいとほ

めてくれる。


何度も試行錯誤を繰り返し、美鈴の協力

のもとメニューができたのが改装前日だ

った。


おかげで、改装の1週間は店に集中でき

る。


「美鈴、サンキュー。お前のおかげでメ

ニューができたよ。お礼に何かしようと

思うが何がいい?」


「お礼なんていいです。大輔さん…マス

ターが真面目に仕事してくれたらそれで

いいです」


痛いところをつく。


自分で言うのもおかしいが店に来る女達

の目当ては大半俺目当てだ。そんな女達

が来れば夜の相手を選ぶこともあった。


男のスタッフには羨ましがられるが、美

鈴には浩輔と同じ顔の俺が女たらしなの

が許せないらしい。


「大輔さん、何しにお店に来てるんです

か?仕事して下さい」


「見てわかんない⁈仕事してるだろう。

接客中だよ」


最初は、何度も店でナンパするなと怒ら

れその度に、話をごまかして同じことを

繰り返し、邪魔をする美鈴の言葉に苛立

っていたが、そのうちに美鈴とのやりと

りが楽しくわざと女達と会話して美鈴の

気をひいていた。


小さな子供が好きな子に意地悪する心境

に似ている。


子供のように泣かないが、目くじらをた

て怒る美鈴を見たいからか、わざとケン

カ越しになる。


浩輔の代わりでも、俺を意識して怒る美

鈴が愛しいと感じていた。


なぜ、浩輔なんだ⁈


同じ顔。


同じ声。


同じ背格好。


区別がつかない仕草。


なのに、お前の心は浩輔の物なのか⁈


浩輔と俺の区別もつかない女達と一緒で

美鈴も俺たちの区別なんてついてない。


だが、お前の心をほしいと思うのはなぜ

なんだろう?


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