恋は盲目 Ⅲ 〜密やかな愛〜
唇を噛み、俺を睨む美鈴の目に背筋がゾ
クゾクとし、生唾をゴクッンと飲み込ん
だ。
(その顔がたまらない)
余計に煽っていることがわからない美鈴
「…お願い…」
彼女の背一杯の懇願
潤んだ瞳がせつなげだった。
「望みのままに……」
唇に優しくキスをし、美鈴を快楽の淵に
落としていく。
冷蔵庫の上で仰向けのまま息を乱し、目
尻を伝う涙。
ここに誰か入ってきたら、美鈴の乱れた
服装に誰もが合意の上とは思えないだろ
うというぐらいに、今の美鈴は朦朧とし
ている。
潤んだ瞳で俺を見つめ、服で拘束された
手を肘から伸ばし俺の頬を撫でる美鈴。
「…すけさん」
かすれた声で求めた。
今、誰の名前を呼んだんだ⁈
まさか、浩輔なのか?
そうだ…最近の美鈴は俺をマスターと呼
んでいる。
やはり、お前の心の中には浩輔がいるの
か⁈
いたたまれない思いで拳を冷蔵庫に打ち
つけた。
「ゴン‥」
一瞬でこちら側に意識が戻った美鈴は、
眼を見張る。
「気がすんだだろう…とっとと出て行け
……」
「だい…マスター⁈」
美鈴に背を向け更衣室から美鈴の鞄とコ
ートをとりキッチンへ行く。
シャツのボタンを留め涙を浮かべ破れた
ストッキングを脱いでいる美鈴。
俺は壁に寄りかかり、美鈴を見ていた。
なぜ、泣いている?
お前は、俺を浩輔の代わりに利用しよう
としたくせに…なぜ、俺の胸は美鈴の涙
を見て心が傷んでいる。
破れたストッキングを俺に投げつけ、言
葉も発しずに睨む美鈴。
傷ついてるのは俺の方だ。
美鈴の腕を掴んだ。
「ッ…痛い。離してよ」
出入り口に向かって美鈴を引き連れ木製
扉を開けると美鈴を追い出し鞄とコート
を美鈴に向かって投げた。
「もう、お前は来なくていい。お祝い用
の資金もできただろう…残りは振り込ん
でおくからクビだ」
「ど、どうして…いや…側にいたいの」
俺は浩輔の代わりにはならない。
「無理だな…会うのは浩輔達の結婚式が
最後だ。その後は、俺の前にもう現れる
な…」
扉をバタンと閉め、そのまま寄りかかり
座り込んだ。
(これでいいんだ。)
涙が頬を伝って床を濡らす。
男泣きと言うのだろう…声を殺し床を叩
きつけた。