鳴かない鳥
学園祭
放課後。
自分の役割分担の打ち合わせが終わった僕は、教室に戻ってくるなり席についた。
「はぁ…疲れた…」
「どうしたんだよ、狭間。それが学園祭を目前に控えた生徒のセリフか?」
隣の席で帰りの用意をしていた高村が、ぐったりと机につっぷして漏らした僕のタメ息を聞いていたらしい。
「それは言いたくもなるよ。何でうちのクラスの出し物が《執事とメイド喫茶》なんだ?普通の喫茶店じゃダメなのか?」
「焼きそばやたこ焼きより、楽しそうだと俺は思うけどな。…女子のメイド姿も見れる訳だし、この人気の権利を手に入れるのに、実行委員の宮成(みやなり)凄い頑張ったらしいぞ」
「宮成の頑張りは認めるよ…けど、僕は裏方希望だったはずなのに何でいつの間にか執事役にされてるんだ」
そう、僕のタメ息の原因はここにある。
役割分担を決める話し合いの時、希望を取るというから第1希望に調理、第2希望に雑用会計と紙に書いたはずなのだ。
それが蓋を開けたら、全く希望外の執事に決定していたという訳で…余りの不本意な結果に、僕は不満を抱えていた。
「いいじゃないか。女子からの指名が多かったんで、実行委員としてはその貴重な声を無視できなかったらしいぞ…くそ、羨ましいなお前」
「じゃあ、羨ましいと思うなら、今からでも遅くない…僕と代わってくれよ。僕は調理がしたいんだ。大体、本人の希望を無視して女子の意見を取るか…普通?」
僕は思い切り《代わってくれ》と縋る目を向ける。
「……嫌だ。そんなことをしたら、俺はクラスの女子に殺される」
高村はダメダメと、顔の前で手を横に振って苦笑した。
「殺されるなんて、オーバーな表現だな」
「何言ってるんだよ、皆がお前に執事をやって欲しいって言ってるんだ。光栄と思えよ」
「……」
提案を取り合ってくれない親友に、僕はがっくりと肩を落とす。
どの面下げて珈琲やジュースを飲みに来た客に『お帰りなさいませ』なんて言うんだ…恥ずかしさの余り、顔から火を吹いて倒れるっていうんだよ。
はぁ…やっぱり憂鬱。
こんなに気分の乗らない学園祭は、生まれて初めてだ。
落ち込みがMAXの一歩手前まで来たその時、教室が突然ざわめき、それから静かになった。
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