鳴かない鳥
巡り合わせ
夕方。
もうすぐ晩秋の頃とは言え、外にはまだ夏の名残りのように暑さが漂っている。
時折吹く風が、アスファルトの上に溜まっている熱を動かし浚(さら)って通り過ぎて行った。
学園祭が始まる頃には、制服は夏服から中間服へと変わる。
衣替え…言葉を思い浮かべるだけでじわり、汗が滲んできそうだ。
早く涼しくなればいいのに…。
そんな事を考えながら、今日読み終えた小説の続編を買いに僕は駅前の本屋に足を運んだ。
自動ドアが開くと、ひんやりとした冷気が肌を包む。
外から入ってきた体には、寒いくらいだった。
汗をかいている首筋が冷えて、ゾワリとする。
目的の本を見つけたら早々に店を出ようと、棚の一角で立ち止まり《林田泰之》の名前を探した。
大原にも言った通り有名な作家ではないので、彼だけのコーナーはない。
ハ行と分類された所に、他の作家と一緒に並んでいるのだ。
林田、林田…前来た時には、この辺りにあったんだけど…あぁ、これこれ。
本の背表紙を指で辿っていた僕は、目的の本に手を掛けた。
その時、誰かの手が同時に伸びて指先が触れた。
「あ…」
「…」
僕らは互いの顔を見た。
その人物を見て、僕は驚く。
彼女は…今井花!?
まさかこんな所で会うなんて。
「ごめん、君もこの本を?」
僕が尋ねると、彼女は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になった。
「はい、どうぞ」
棚にあった本を手渡すと、色白の手がそれを僕の方に押し戻す。
「あれ、もしかして欲しい本はこれじゃなかった?」
その問いに、彼女は首を横に振った。
『ど・う・ぞ』
ゆっくりと淡いピンク色の唇が動く。
僕は何でだろうと棚に視線を戻して、初めてその本が1冊しかない事に気づいたのだった。
「他に読みたい本もあるから、遠慮しなくていいよ」
彼女の柔らかな笑顔に、僕もつられるように微笑んだ。
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