鳴かない鳥
彼女の大好きな両親は、とても仲が悪い。
一緒に暮らしている時は、顔を突き合わせる度にケンカばかりしていた。
いつから互いの歯車が上手く噛み合わなくなくなったのか…花には分からない。
分からなかったが、2人が互いを罵る姿を傍で見るのが娘として辛かったのは確かだ。
だから離婚の話を聞かされた時、正直その方がいいのだろうと花は思った。
中学を卒業する春の事だった。
けれど…あれから1年半の月日が流れたが、両親の心に何の変化もない。
それはとても悲しい事だった。
今頃じんじんと痛みだした左頬を、花はそっと手で押さえる。
「花…ごめんね、いきなり叩いたりして…」
急に薫の声のトーンが優しくなった。
「でもお願いだから、お父さんとはもう会わないで。私を1人にしないで」
「…」
ポロポロと涙を零しながらギュッと抱きしめられると、それだけで花はもう何も言えなくなる。
薫は娘も自分を置いて父親の元へ行ってしまうのではないかと、不安に思っているようだった。
だからこんなにも必死に、自分の傍に繋ぎ止めようとするのだろう。
(お母さんは寂しいんだね…)
離婚した母親の愛情がたった1人の娘に向けられるのは、仕方のない事なのだと花は理解していた。
でも花は父親も好きなのだ。
顔も見たいし、話もしたい。
だから時々こうして学校の帰り道、1時間だけと時間を決めてこっそり会っていたのだ。
だけどバレれば、もう会うのは無理だろう。
(私が我慢すればいいんだもんね…)
またこの事が原因で、2人の仲が更に悪くなるのは避けたい。
父親には後でこっそりメールで伝えようと、花は悲しいけれどそう決心した。
「…ごめんなさい。もう会ったりしないから、泣かないで」
花は母親の震える背中に、そっと両の腕(かいな)を回して言った。
けれどその決心は━━━。
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