鳴かない鳥
水底に沈む心は


沈むような気持ち。

まるでゆっくりと水底に心が落ちて行くような。

そこは暗くて、静かで。

何もない世界。





「あ…」

目を覚ますと、心配そうに僕の顔を覗き込んでいる今井と目が合った。

なぜ彼女がここに。

もしかして本屋を飛び出す僕を見て、追いかけてきてくれたのかな。

だとしたら、心配させてしまったかもしれない。

まだ少しぼんやりする頭で、そんな事を考えていると、


『だ・い・じ・ょ・う・ぶ・?』


彼女の口がゆっくりと発音するように動いた。

「…うん」

少し笑って頷くと、彼女はホッとした胸を撫で下ろす仕草をする。

それから僕にここで待つような身振りをすると、どこかへ走って行った。

体を起こすと横になっていた頭の下には、彼女のものらしき淡いブルーの上着が枕代わりに折りたたんで敷いてある。

手に取ってホコリを払うが、コンクリートの上に直接置いてあったので少し汚れてしまっていた。

クリーニングして返さないとな。

僕のカバンは彼女がそうしてくれたのか、壁に立てかけられるようにして置いてある。

その上に、これ以上汚れないようにと上着を載せた。



「はぁ…」



声に出てしまう程のタメ息。

またやってしまった…いや、勝手になってしまうんだから仕方ないのだけれど。


――さっき見たあれは、夢でも何でもなく今井花の記憶。


見てはいけないものを見てしまった、僕の胸中は複雑だった。


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