鳴かない鳥


「…今井さん、どうして学校に行かないの?」


その問いに、ペンがサラサラとノートの上を走る。


《声が出ないと、皆に迷惑をかける事になるから》


あ、まぁそうかも知れない。

でも彼女を心配している友達たちは、そんな風には思わない気がするけどな。

今井がそこにいない事の方が寂しいんじゃないだろうか。

一瞬、この前廊下ですれ違った女子の会話を伝えようかと思ったけど、今の考え方では却って心の負担になるかもと思い止まる。


「そっか…その、喉どうしたのか、聞いてもいい?」


実はちょっと気になっていたのだ。

過去の彼女は高村が言っていたように、普通に声を発していたから。

つまりあの出来事の前は話せていた、という事になる。


『…』


と、彼女の表情が更に暗くなった。

しまった…。

唇をキュッと噛みしめる様子に、僕はしてはいけない質問だったと気づく。


「あ…ごめん、今の質問なし!!答えなくていいよ」


慌てて言うと、再び彼女の手が動いた。


《心因性失声症なの。前は普通に話せてたんだけど…》


心因性…母親の死と原因が、彼女をここまで追いつめてしまったという事か。

これ以上、思い出させてはいけない。

彼女の辛さが大きくなるだけだもんな。

「早く治るといいね」

そう言うと、

『あ・り・が・と・う』

今井は小さく笑った。



それから僕たちはしばらく他愛もない会話をして、そして手を振り別れた。

見上げた空は日も落ちて、すっかり暗くなっていた――。


.
< 18 / 31 >

この作品をシェア

pagetop