鳴かない鳥
「…今井さん、どうして学校に行かないの?」
その問いに、ペンがサラサラとノートの上を走る。
《声が出ないと、皆に迷惑をかける事になるから》
あ、まぁそうかも知れない。
でも彼女を心配している友達たちは、そんな風には思わない気がするけどな。
今井がそこにいない事の方が寂しいんじゃないだろうか。
一瞬、この前廊下ですれ違った女子の会話を伝えようかと思ったけど、今の考え方では却って心の負担になるかもと思い止まる。
「そっか…その、喉どうしたのか、聞いてもいい?」
実はちょっと気になっていたのだ。
過去の彼女は高村が言っていたように、普通に声を発していたから。
つまりあの出来事の前は話せていた、という事になる。
『…』
と、彼女の表情が更に暗くなった。
しまった…。
唇をキュッと噛みしめる様子に、僕はしてはいけない質問だったと気づく。
「あ…ごめん、今の質問なし!!答えなくていいよ」
慌てて言うと、再び彼女の手が動いた。
《心因性失声症なの。前は普通に話せてたんだけど…》
心因性…母親の死と原因が、彼女をここまで追いつめてしまったという事か。
これ以上、思い出させてはいけない。
彼女の辛さが大きくなるだけだもんな。
「早く治るといいね」
そう言うと、
『あ・り・が・と・う』
今井は小さく笑った。
それから僕たちはしばらく他愛もない会話をして、そして手を振り別れた。
見上げた空は日も落ちて、すっかり暗くなっていた――。
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