鳴かない鳥
「今井さん、どうして謝るのか…その理由を話してくれないと分からないよ?」
僕の困惑した声に、彼女は少し顔を上げると小さく頷く。
《昨日、狭間くんに嘘ついたの》
「嘘?」
会話の中で嘘をつかれたという感じはしなかったけど…。
そうなのかな…でもそれは会話の中で、言いにくかった事があったからなのではないだろうか。
今井の事をよく知っている訳ではない。
でも人を陥れたり悪意で嘘をつくような性格ではないと思うのだ。
そんな横で、彼女は僕の前にノートを見せる。
《学校に行かない理由の事…》
「皆に心配かけるっていってた、あの事?」
彼女はこくんと頷く。
《本当は学校に行く勇気がなくて…もしかしたら狭間くん、噂を聞いて知ってるかも知れないけど、先月私のお母さん自殺したの。その原因を作ったのは私…だから、その事を皆に色々聞かれるのが怖い。本当の事を知ったら、友達もクラスメートも私を軽蔑するかも知れないと思うと怖くて学校に行けない》
俯いてサラリと肩から零れた髪が、今井の顔を隠す。
見えないけど、どんな表情をしているのかは容易く想像がついた。
事情が事情だから、不安が大きいのは仕方のない事かもしれない。
《でもね、その気持ちと反対に皆と会いたいって思ってしまう自分がいて、凄く戸惑ってる。狭間くんから学園祭の話を聞いた時、ずっと前から親友の智香ちゃんや沙織ちゃんたちと一緒に楽しもうねって約束してたのを思い出したの。そしたら皆の顔が浮かんできて》
「…そっか」
それを聞いて、僕は思わず笑みが零れる。
「少しずつだけど、今井さんはキチンと前に向かって歩きだしてるんだね…本当の気持ちが聞けて良かった、はいこれ」
僕はカバンから冊子を取り出し、彼女の前に置いた。
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