鳴かない鳥
彼女の翼
翌日。
僕は登校してくる生徒の波の中に、今井の姿を見つけた。
良かった、ちゃんと出てきたんだ…。
以前よく見かけていた時のように、長い髪を左右2つに分けて結んでいる。
校門をくぐって教室に向かう事が出来るだろうか…心配になって、僕は校門の少し手前で足を止めた。
どこか不安げな表情を浮かべる彼女の足取りは、重い。
そんな今井の横を、楽しそうに笑いながら他の生徒たちが追い抜いていく。
…やがて迷うように立ち止まった足。
彼女は校舎をじっと見上げている。
両手でカバンを握り締め、躊躇っているその様子に、やっぱり僕は声を掛けてみようと思った。
その時――
「花っ!!」
「花ちゃんっ!!」
やけに通る声が辺りに響いて、2人の女子生徒が彼女に駆け寄ってくる。
…あれは廊下で今井の心配をしていたクラスメートだ。
「おはようー」
「久し振りだね!!」
歓迎の言葉とともに、彼女は2人に両サイドから抱きしめられていた。
もちろん、昨日の今日だ。
当然、今井は声が出ない。
けれどとても幸せそうな心からの笑顔を浮かべる様子が、彼女の心を表していた。
鳥かごの中で傷ついて羽ばたく勇気のなかった鳥が、ようやく自分の翼で空へ飛びだした…そんな瞬間。
その光景に、僕もつられて笑顔になる。
「…へぇ、お前今度は彼女に何をした訳?」
いつの間に隣に立っていたのか、今井が友達に囲まれて昇降口へ行く姿を見た高村が、僕に顔を近づけてこっそり聞いてきた。
「うわっ、何だよいきなり現われて…ビックリするだろ」
「あぁ、おはよう…で、何したんだよ」
『ついで』みたいな挨拶をされても嬉しくないんだけど。
しかも棒読みだし。
「質問の意味が分からないよ、高村」
大体『今度は』って何だよ、『今度は』って…。
まるで節操なく《誰にでも手を出してる》みたいな響きの言葉に、僕は顔を顰めた。
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