鳴かない鳥
「お前、昨日の放課後、駅で今井とお茶してただろ。俺、店の前通りかかった時、偶然見たんだ」
「何だよ、だったら手ぐらい振ってくれれば良かったのに」
時々外に目をやっていたが、気づかなかった。
「…あのなぁ、深刻そうな顔して話し込んでるお前らに向かって、呑気に手なんか振れる訳ないだろ。そこまで俺は無神経じゃないぞ!!」
彼にしてはまともな意見である。
確かに僕でもその場の雰囲気を察して、通り過ぎるだろう。
「おはよう!!2人ともボーっとしてると遅れるよ」
横を足早に田畑が通り過ぎて行った。
そうだ、ぼんやりこんな所で立ち話している訳にもいかない。
僕は昇降口に向かい歩き出す。
「…にしても、お前と今井っていつから顔見知りになったんだ?この前はそんな事、言ってなかっただろ」
隣に並んだ高村は、相変わらずいつものように好奇心いっぱいの様子で質問してくる。
「あぁ、この前たまたま帰り道でばったり出会って、それで話したのがきっかけかな」
「ふぅん、今井ってどっちかっていうと大人しくてあまり自分から男子と話したりするタイプじゃないんだけど…本当、お前って不思議なヤツ。大原といい、今井といい、お前と関わった女子はその後、凄く前向きな雰囲気に変わるんだからな」
さっきの彼女の様子を見て、高村は変化に気づいたみたいだった。
こういうところは結構鋭い。
「別に…僕は普通に接してるだけだよ。こうしてお前と話してるみたいに」
すると、顎に手を当てて高村は唸る。
「まぁ、確かにお前って誰とでもこんな感じだよな…じゃあ、何でだ?」
「さぁね…もしかすると、僕の声を聞いたらアルファ波が出るのかもしれないな」
「えっ、マジか!?……そ、そう言われれば、一緒にいると気持ちが安らぐようなゆったりするような…」
「ぷっ!!」
高村の素直な反応が可笑しくて、思わず吹き出してしまった。
「な、何だよ。何で笑うんだ!!」
「だって冗談なのに、本気にするんだもんな。そんな訳ないだろ」
僕はお腹を抱えて笑う。
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