鳴かない鳥

「いや、近いもんはある気がするぞ」

高村は大まじめに答えた。

「でも良かったよな、学園祭に間に合ってさ。やっぱ学校の行事は面倒臭い事も多いけど、楽しい事の方が圧倒的に多いもんな」

「うん。2度と時間は戻らないんだ、今を大切にしないとね…それに、彼女に辛い顔は似合わないよ」

上靴に履き替えて顔を上げると、なぜか高村は顔を赤らめている。


「何だよ…」


「お前って、もしかして天然なのか」

「天然…何が?」

「いや、やっぱりいいです…」

勝手に質問を自己完結させて、僕からふいと目を逸らしてしまった。

今ロクでもない事、考えただろ…高村。

1年からの付き合いだし、何となく表情から察しはつくよ。

教室に向かって歩き出した隣で、あいつはずっと『そうか、そうなのか』と1人でブツブツ言っている。

と、突然何かを思い出したようにパタッと足を止めた。


「どうしたんだ?」


「…そう言えば、狭間。今井が親父さんと一緒に暮らすの断ったって話、聞いてるか?」


「――いや…初耳だよ」


そこまで深く込み入った事情までは今井も話さないし、僕も聞こうとは思わなかったので高村の言葉に軽く驚いた。

だって彼女は父親にとても会いたがっていたはず。

なのに、なぜ…。

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