鳴かない鳥
「高村は理由、知ってるのか?」
「いや。ただちょっと小耳に挟んだから、お前なら知ってんのかなと思ってさ。まぁ、複雑な家庭事情みたいだから、きっと本人たちにしか分からない理由ってヤツがあるんたろうな」
「そうだな…」
僕はその言葉に頷いた。
今井はきっと考えて、考えて。
自分なりに答えを見つけて、そしてそう結論を出したのだろう。
「…」
「…」
それきり僕たちは無言になる。
教室に着いてドアを開けると、ざわついたクラスメートの声がひと際大きく聞こえた。
心に負った傷が消える事はなくても…彼女は確実に前を見て歩いている。
周りの友達に支えられながら、その存在に笑顔を零しながら。
たくさんの人の優しさと思いを、これから知っていくだろう。
声を失った少女が言葉を取り戻す日は、きっと近い――そう僕は信じている。
― 完 ―
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