鳴かない鳥

「ねぇねぇ、智香」

「ん?」

「花ちゃん、あれから学校に出てこないね」

途中、廊下ですれ違いざま、2人の女子生徒の声が耳に入ってきた。

「このまま学園祭にも顔出さないのかな」

「どうだろうねー。目の前であんな事があったんだもん、相当ショック受けてると思うよ」

「顔見に行きたいけど、迷惑だよね」

「今はそっとしとくしかないよ。時々、担任が様子見に行ってるみたいだから、職員室に行って聞いてみようか」

「うん、そうだね」

2人はお互いの顔を見合わせ頷くと、そのままパタパタと廊下を走って行ってしまった。


「……」


聞くつもりはなかったんだけど…何となく会話の内容が気になって後ろを振り返る。

「高村、今の話って…」

「あぁ、たぶん9組の今井の事だろ」

今井…話した事はないが、顔と名前知っている。

長い髪を左右に分けて結んでいる、小柄で優しそうな雰囲気の子だ。

「母と娘の2人暮らしだったんだけど、先月お袋さんが亡くなってな。それ以来、学校を休んでいるらしい」

「それは大変だな。病気か?」

「いや。自殺」

高村の一言に、僕はギョッとした。

「警察とか来て、結構大変だったらしいぜ」

「そっか…にしても、お前やけに詳しいな」

「オレのお袋が今井の所と付き合いがあったんで、それ経由で色々と耳に入ってくる」

「……」

自殺、か。

たった1人の子供を残して逝くなんて…その時、今井はどんな気持ちだったんだろう。

人の死は悲しいよな。

それが近しい者であればあるほど…。

2人は無言になる。

重たい気分で昇降口を出ると、門の所で僕たちは別れた。
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