鳴かない鳥
        ☆


結局。

昼休みは教室で弁当を食べた後、高村は慌ただしく職員室へ向かい、残った僕はもやもやした気分をどうにかしたくて、持って来ていた文庫を片手に中庭へ行くことにした。

外はまだ日差しが強いけれど、木陰だったら大丈夫だろう。

夏の色が濃く残る景色の窓に視線をやって歩いてると、


「狭間くん」


ぱたぱたと走ってくる足音が近づいてきて、僕の隣に声の主が並んだ。


「大原…そんなに慌てて、どうしたんだ?」


最近の彼女は楽しそうにしていたから気づかなかったが、もしかしたらまた心の中に重い悩みでも抱えているのだろうか。

心配になって聞こうとしたその前に、彼女が口を開いた。


「狭間くん、何かあった?」


「……えっ?」


大原の問いに、僕が間の抜けた声を出すと、

「あ…えっと、その…何だか元気がないみたい、だったから…」

俯きながら、しどろもどろに答える。


「そう?そんな風に見えた?」


妙な所で勘が鋭いなぁ…僕は自分が心配される立場になっている事が可笑しくて、クスッと笑った。

「うん。なんだか沈んでる感じがしたんだけど…ごめんね、変な事聞いたりして」

「いや…もしかしたら小説の内容が気になって考えてたから、そう見えたのかも」

言って、持っていた文庫本を見せる。

「小説?」

「そう。もう少しで読み終わるんだけど、ラストが気になってさ」

「その本、そんなに面白いの?」

「あまり有名な作家ではないんだけど、この人の書くミステリーは面白い…と僕は思う」

「へぇ…」

そんな彼女の視線は本に釘付けのままだ。

興味あるのかな、これに。

「大原もミステリーとか読んだりする?」

「うん。好き…日本でも海外のものでも、結構雑食的に」

そう言って、小さく笑う。

「これ、読む?」

「えっ、いいの?」

「昼休みの間には読み終わると思うから、放課後で良かったら」

「ありがとう、じゃあまた後でね」

そう言うと、来た時と同じように走って教室に戻って行った。

その後ろ姿を見送ってから、僕は中庭に足を向ける。

.
< 8 / 31 >

この作品をシェア

pagetop