スキャンダルな贈り物♡


『ついちゃったよ…』




タクシーが停車した場所は、都内でも有名な高級アパート。

木陰は…少ない。





こんなところで本当に追跡出来るの?

あーー。このまま引き返そうかな。




訴えられたら、牢屋入りかもしれない。



もしかしたら無期懲役が下って、ずっと牢屋で生きなきゃいけないかもしれない。







…やだやだやだ。










「あのーお客さん。早く出てもらえないですか?」

遠慮気味に、運転手が言う。

『すっすいませんっ!』


資料をファイルに戻し、慌ててタクシーを降りる。






…あれ?私、思ってることとやってる事が全く矛盾してるんだけど……







そう思った時には、すでにタクシーは進んでいた。












もう道はない。

やるしかないのだ。







重い足取りで、アパートの方へ向かう。


周りの人に、変な目で見られた。




…それもそうだろう。

肩に大きいカメラなんてぶら下げてたら。






どっかの変態か、ストーカーだって思われても仕方ない。


…これが仕事なんだなぁ。














行き交う人。



人。


ひと。


ヒト。



ひと………










『!!!!』


私は息を呑み、慌てて近くの木陰に潜む。





バッグに入れたファイルから、急いで資料をとった。


資料の写真に映る男、桜田圭斗(さくらだ けいと)。






目の前にいる男、桜田圭斗。









同一人物だ。

やばい。



今人気沸騰中の活躍俳優…。





初めて見たとき、率直な感想を言うとしたら

「庶民的。」





あまりにも俳優やってそうなオーラみたいなのはなくて。

いかにも普通、みたいな。






あの顔が昼間渋谷なんかに現れたらそれっぽいかもしれないけど。


夜見たら…そんなたいしたことない。









この辺、外灯少ないから、カメラ写るかな。

シャッターなんか切ったら、バレちゃうもんね。













とりあえず一枚だけ撮って帰る。


仕事のため。





私はそれだけだった。









だんだんとアパートに近づいてくる桜田圭斗を、レンズ越しに眺める。



…足長い。





サングラスをしていて、よく顔はわからない。

が、明らかに桜田圭斗だ。











資料によると、桜田圭斗は
年上女性と付き合っている、らしい。


それも、元人気タレント安達紗羽(あだち さわ)と。




これは確かにスクープだ。





なんで20代前半、私と同じくらいの歳の男が40歳近い女と付き合っているのか。






そしてまたまた資料によると、この高級アパートは、その安達紗羽の家らしい。

そこに通う、桜田圭斗。









怪しいって思うのも、無理はない。












少しの悪気をよそに、私はレンズ越しの桜田圭斗を見る。

アパートの入り口…その辺で写真を撮ろう。







カメラを構える…。



桜田圭斗の足が、だんだんとアパートに向かっている。










ゴクリ、と息を呑んだ。

















咳払いを少しした後、もう一度レンズ越しにアパートの入り口を見る。






『あれ?』













……桜田圭斗は居なかった。
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