スキャンダルな贈り物♡
「紗羽さん、どこ行くんスカ」
「いいから。これからタップリ、たのしい事、教えてあげるから」
紗羽さん。
あなたの、゛たのしい事゛って、ひとつじゃないスカ…
憂鬱になりながら、俺は紗羽さんに続く。
紗羽さんの後ろに続く、鼻につくきついにおい。
「ついたわよ」
「ここ………事務所?」
「ええ、そうよ。わたしたちの事務所」
紗羽さんは、ニヤリ、と笑った。
俺は何も思わなかった。
俺の今日の服は、私服。
黒のスキニージーンズに、白いトップス。
アウターはベージュ。
アイボリーのカラーのマフラー。
完全防寒対策、って感じ。
俺はマスクも帽子もサングラスもなにもしていなかった。
逆に紗羽さんは、ビビッドピンクの女優帽。
谷間を強調した黒のワンピース。
それに、ネイビーのニットを羽織ったゆるスタイル。
紗羽さんは基本、撮影とか収録でもこのような衣装を好む。
衣装ってか、ほぼ自前らしいけど。
紗羽さんも、マスクやサングラスと言った自分を隠すものは身につけてなかった。
「さあ、入りましょうか」
満面の笑みで、紗羽さんが言う。
俺は遠慮気味に、紗羽さんについていった。
紗羽さんの手が、俺の腕に手を回す。
「ちょっ」
俺は思わず拒否してしまう。
…………しまった。
紗羽さん、怒ったかな?
紗羽さん怒らせると怖ぇんだよな。
………なーんて思ってたら。
紗羽さんの反応は意外に意外なものだった。
「全くぅ、シャイなんだからっ」
…………。
性格が180°グルリと変わったような。
俺はその紗羽さんの笑顔に、思わず苦笑い。
俺は、知らなかった。
これが、これが………
……………………紗羽さんの唯一の狙いだったってことに。
事務所の入り口、俺の腕をガッチリと掴む安達紗羽。
それに苦笑いするかのように笑う、桜田圭斗。
事務所近くの木影に潜んでいたあるマスコミ会社のカメラのシャッター音が、密かになった瞬間だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーカシャ。
レンズは、しっかり俺と紗羽さんを捉えていた。