スキャンダルな贈り物♡
『おはようございます』
社内に入るなり、すれ違う人全員にいちいち挨拶をする。
挨拶って悪いことじゃないけど、エスカレーターですれ違うだけで挨拶するっていうのが義務付けされているのだ。
…なんとも面倒くさい。
違う課の人にでも挨拶をしなければならない。
君誰?って感じだよ。
作業室に入り、自分のディスクに向かう。
昨日みたいに山積みされたような資料やプリントなどは今のところ見つからない。
よし、今日は打ち込み作業なしだ。
やった。
ディスクに座って、パソコンを起動する。
隣の美奈実は、まだ来ていないようだった。
さっき買ったコーヒーのフタをあける。
私の周りに、コーヒーの匂いが充満する。
朝のコーヒーって本当に美味しい。
冷めないうちに、と飲んでいたら。
藍村部長に話しかけられた。
「おはよう、佐竹」
『おはようございます』
なんだかいつもより、よそよそしい。
藍村部長の背後の両手には、数枚の資料。
「ん~…俺が推薦したんじゃないぞ?」
…は?
この人、話しかけるなり急に何いってんの?
『失礼ですが部長、どういう意味でしょうか?』
部長の言っている意味が全く理解不能だった私は、言葉を選びに選んで、綺麗に言った。
そして少し悩んだ様子を見せた部長は、たどたどしく口を開いて言った。
「派遣。派遣だ。派遣だよ。お前が抽選で当たっちゃったんだなー。今話題沸騰中の俳優、居るだろ?桜田圭斗だっけ?圭哉だっけ?」
『確か桜田圭斗です。それがどうしたんですか?』
「んとな。つまりだな。その桜田とか言う奴が年上女性と恋愛しているらしいんだよ。それを…証拠に収める作業を、お前にやって欲しいんだ」
『ふーん。ん~と…つまり………
え!?嘘!?スキャンダル?!!!!』
「すまん」
…( °_° )。
嘘…。
証拠をつかむって…ストーカーして写真撮るやつだ…。
私がこの仕事で唯一嫌いな作業だ。
この三年間で、一回もやったことないのに。
『ちょちょちょっと、ちょっと待ってください。こういう仕事って他の課の仕事じゃないんですか?』
慌てて訂正を願う。
嘘でありますように、なんかの嘘でありますようにって願いながら。
数秒後、その願いも花と散った。
「うん。そうなんだがな。追跡課の人手が足りなくて、他の課から10人抽選でやらせることになったんだ」
もうダメ。
返事もできない。
「その抽選で、たまたまお前が当たっちゃったってわけだよ」
そう言って、部長は私に数枚の資料とカメラを渡してきた。
それを渋々と受け取る。
「期間は今日の夜から来月の6日まで。それまでに追跡出来なかったらボツでいいから」
そう言って部長は自分のディスクに戻っていった。
…えええ。
やりたくないよ。
まぁ、カメラと資料を受け取った時点で、やらやきゃいけないってことは確定してるんだし。
今更何言ったって遅いし。
やるしかないか。
資料を見ながら、憂鬱になっていく。
これも仕事のうち。
そう収めて、ひとまず今日の仕事に向かった。