何度でもつかまえて
8
振り返ると息を切らした永瀬がいた。
「あ…」
「どう…したんだよ…急に走り出すから…びっくりするじゃんか…!」
呼吸の合間に永瀬が必死に声を出す。
「永瀬…」
視界がボヤける。涙が止まらない。
永瀬が驚いて駆け寄る。
「千里!?どうした?どっか怪我したのか?」
「うっ…う……」
私は永瀬のこと…
永瀬がためらいながら、そっと私を抱きしめる。
「ごめん…今だけこうさせて?」
小さく頷くと、永瀬は強く抱きしめた。
「…永瀬…私のことなんて嫌いになった…?」
「何でそんなこと聞くんだよ」
「永瀬に酷いことたくさん言ったから…さっきも無視したよ…」
「あれは…千里の浴衣姿が可愛かったから」
「…え?」
「可愛いって言われるの嫌なんだろ?だからどうしていいか分からなくて、思わず視線そらした。嫌いになるわけないだろ。俺は千里が好きだよ」
抱きしめられててよかった。顔見られずにすむから。こんな恥ずかしい泣き顔なんて。
「千里、笑って」
永瀬の言葉に私は顔を見せるどころか隠した。永瀬の肩に埋めて。それでも永瀬に見えないように私は笑った。
「永瀬と距離置かれて…寂しかった。酷いこと言ってごめん…」
「俺のこと好きになってくれた?」
私は永瀬の背中に手を回して言った。
「…永瀬が好き」
私がどんなに逃げても、必ず追いかけてきてくれる永瀬が好きだよ。
「へへ…作戦成功!」
「は?」
「千里へのスキンシップを控えたら、逆に俺のこと意識してくれるかなと思って。押してダメなら引いてみろってね。俺自身のことを嫌いだって言われたわけじゃないし」
「…………」
「でもやっぱダメだ。千里可愛すぎ。浴衣姿は犯罪です」
「…………」
「はだけた浴衣姿も色っぽい!すげーいい!!」
「…………」
「あれ?千里?」
「うるさい!二度と触るな!話しかけるな!この変態が!!」
「えっ…ちょっと千里…ぐぇっ!!」
変態の腹にパンチを一発お見舞いしてやった。
やっぱりバカだ永瀬は。
だけど本当にバカなのは永瀬の作戦より前に、永瀬に心を掴まれてしまった私の方かもしれない。
END