女神の落としモノ
「ちょっとシド?どーすんのさ、るな出てったよ?」
「いたくねぇなら、勝手に出てけばいいだけの話だ」
イオンの責めるような視線が、俺の胸を突き刺す。
そうは言ったものの、罪悪感みたいのがさっきから俺を苦しめる。
だってそうだろ?
家も無い、家族も無い俺たち海賊は、誰もが貧困層の出身で、貴族達を恨んできた。
治める人間が馬鹿なら、その下の民は路頭に迷う。
その結果が俺たちのような海賊を生んだ。
苦しめられる民に希望を与えるために、権力者のもつ最も価値あるモノ、つまりそれ一つで全てを失うくらいの価値があるモノを奪い、失脚させる。
反対に、それ一つで虫けらのように扱われた人生から、人として最低限生きていけるだけの希望を苦しむ民に与える。
その方法が、たとえ罪であったとしても、俺だって、その罪に救われた一人だ。
悪には悪を。
罪には罪を。
それが俺達の正義だ。
「あいつみたいな、ほんわかして、お気楽な温室育ちには、一生理解出来ねぇだろ!」
「温室育ち………ね。それって俺にも喧嘩売ってる?」
イオンはニコリと黒い笑みを浮かべた。
それを見て、しまったと後悔する。
「俺も、元貴族出身だったって知ってるよね?どんな環境にいても、その人間の辛さは誰にも理解出来ない。下民でも、貴族でも、シドにも、俺にも………ね?」
「………………イオン…」
「本当に理解出来るのは自分自身だけだけど、俺はそれを分かろうとして、進むべき道を示してくれたシドに希望を見たから、その思想にどこまでもついて行こうと思ったから、俺はここにいる。るなだって、そうなんじゃない?」
「…………るな………」
あの、泣きそうな、悲しそうな顔が忘れられない。
この世界でアイツは、たった一人なんだ。
誰も知らない、見たことの無い土地で俺達が見捨てたら……
「イオン、悪かった。………ちょっと、出てくる」
「全く、素直じゃないなぁ!迎えに行ってくるっていいなよ♪行ってらっしゃい、頭」
ったく……馬鹿にしやがって。
イオンが頭なんて言う時はたいてい面白がってる時だ。
背を向けて扉に手をかける俺にイオンが笑った気がした。
「頑張ってね~」
そんな明るいシドの声を聞きながら、俺はるなを探しに宿を出た。